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みんなの教科書『胸郭変形』

胸郭変形

※一部グロテスクな表現のある画像があります。
心臓の弱い方は注意して御覧ください。

1.心臓手術と漏斗胸の同時手術

近年、開心術は飛躍的に増加し、安全性、適応の拡大など、その進歩は著しい。一方、漏斗胸に対する外科治療も胸骨飜転術を中心として、さまざまの術式の発展をみ、臨床経験の深まりとともに確実にその洗練の度を加えている1)。従来、心疾患、漏斗胸の両者を伴う者にとっては、まず生存に対して心臓修復が優先され、漏斗胸は放置された。その後、開心術の進歩により、心臓修復後二期的に漏斗胸に対する外科治療を行ないうる余裕が生じ現在まで続いている。
しかし、いまやこれら両手術を統括的に施行しうる外科医の出現など、同時手術が可能な条件がそろうようになった。同時手術は、もしそれが可能なら、患者の入院期間を縮め、短期により完全な治癒を約束することになり、意義は大きい。
教室では心疾患および漏斗胸に対する同時手術を積極的に施行し、みるべき治験を得ている。そこでまず若干の症例を呈示し、これをもとに同時手術の要請された背景とその意義、実際の術式および合併症などについて考えてみたい。

a.症例

家族歴:両親、兄弟、祖父母ともすべて長身瘦軀である以外、とくに異常を認めない。
既往歴:2歳のとき肺炎、30歳のとき腎盂炎、カゼをひきやすい。
現病歴:生下時鳩胸の印象があったが、しだいに漏斗胸が判然としてきた。それとともに内向的性格が強まっていった。高校時代ごろより、動悸、息切れが生じ階段昇降も容易でなくなった。


入院時所見:身長169cm、体重42kgと長身瘦軀で、クモ状指趾。Metacarpal indexは左右とも10.4、頭蓋は長頭型、長幹骨の過長、関節の過運動性あり、thum sign陽性、筋肉および皮下脂肪の発育悪く、眼科所見は、視力右0.02、左0.03と高度の近視および乱視。
両側水晶体偏位は20歳時よりあり。和田分類2)4度の高度の漏斗胸あり、脊椎は後彎および右側彎を示す。胸骨左縁第4肋間にLevineⅢ度の汎収縮期雑音、胸骨右縁第4肋間にLevineⅡ度の収縮期雑音が認められる。
呼吸機能検査では、1秒率は正常であったが、肺活量は1.670mlと著明に低下し、漏斗胸による拘束性障害が考えられた。
胸部X線所見ではCTR60%、胸骨の著明な陥凹、後側彎、心の左方偏位などが認められた。また心電図所見ではQRS電気軸は+95度、不完全右脚ブロック、V1のP波陰転など漏斗胸に一般的な所見のほか、V6までの全胸部誘導がRS型という極端な時計軸回転を示した。
また、エコーでは僧帽弁前尖の逸脱所見がみられ、大動脈径の拡大および壁の弾力性低下などが認められた。心臓カテーテル検査では肺動脈楔入平均圧20mmHg、v波30mmHgと上昇し僧帽弁逆流所見を示したほか、右房平均圧15mmHg、v波20mmHg と三尖弁逆流による上昇を示した。左室造影では僧帽弁逸脱およびSeller分類Ⅲ度の逆流が認められ、右室造影にては三尖弁逸脱および中等度の逆流が認められた。また大動脈造影では、大動脈弁は正常とあったがバルサルバ洞の拡大がみられた。
手術所見:胸部正中皮膚切開を加え、皮膚は大胸筋、小胸筋とともに肋骨および胸骨から剝離し、胸骨を第2肋間で切離し、陥凹部の胸骨、肋骨、肋軟骨および筋肉などの軟部組織をenblockに切除した。これら軟部組織は可及的に切除して胸骨肋骨複合体(costo-sterno complex またはplastron)を作製し、1時間半あまりの体外循環中、抗生剤入りの心筋補護液にて冷却保存した。僧帽弁は典型的なfloppy type で弁口径は5cmあり、これをHall-Kaster 29Mの機械弁に置換した。
三尖弁は4横指大に拡大しており、これを太いテフロン糸にてtailoring annular constriction法(TAC)により3横指に縫縮した。保存していたcosto-sterno complexはメスにて平盤に修正し、人工心肺離脱後、止血が十分行なわれたところへおのおの端端縫合にて固定した。
術後経過:患者は術後明らかに精神的な明るさをとりもどした。CTで前胸部陥凹は明らかに改善しており、胸骨による心臓への圧迫が解除され、また心臓の位置の回復も認められた。心臓カテーテル検査では肺動脈楔入平均圧12.5mmHg、v波18mmHg、右房平均圧10.5mmHg、v波13mmHgと右心圧データの著明な改善が認められた。現在5年6か月を経過した時点でまったく問題を認めていない。
【症例2】K.K.,20歳男(図Ⅱ-5~Ⅱ-7)
主訴:前胸部痛、動悸、息切れ、易疲労感、内向的性格。
既往歴:特記すべきことはない。
家族歴:父方の祖父がMarfan様体格で長身であった。妹も同様な体格で(身長165cm)、近視である(右0.3、左1.2)
現病歴:生下時身長55cm、体重3,500gであった。8歳時には息切れ、易疲労感などがあり、近医で漏斗胸、脊椎側彎、近視などを指摘されたが放置した。14歳にはこれらの症状が増悪し、他病院にてMarfan症候群の診断を受け、大動脈造影にて大動脈径の拡大、弁輪拡大、バルサルバ洞拡大などが指摘された。性格は内向的で19歳時には動悸、息切れ、易疲労感はさらに増し、前胸部痛が出現した。20歳時には狭心痛が1日に数回起こるようになったので当院に入院した。


入院時所見:身長190cm、体重41kg、顔貌細長く、顎骨突出しており、胸部X線にて脊椎の軽度側彎を認め、和田分類4度漏斗胸あり、また反張膝、関節過伸展、クモ状指などが認められ、thum sing , wrist singはいずれも陽性である。手指X線でmetacalpal indexは10を示し、また水晶体脱臼はないが、著明な近視(右0.3、左0.3)が認められ、血圧120/60、脈拍88で不整なく、左右差もない。胸骨左縁第3,4肋間にてLevineⅣ度の拡張期灌水様雑音があり、thrillをふれる。肝脾腫はない。血液一般検査でとくに異常はなく、心電図で左室肥大所見およびV1のP波陰転、V-1-5のT波陰転、V5のST上昇などを示し、エコーでは大動脈弁論および大動脈径の著明な拡大、および僧帽弁のflatteringを示した。心臓カテーテル検査では右室圧29/0mmHg、肺動脈圧27/8mmHg(平均15.5)、右室拡張終期圧2.5mmHgとおおむね正常範囲にあり、心拍出量は4.16l/minを示した。大動脈造影にては著明な大動脈弁論拡大、嚢状動脈瘤、大動脈弁閉鎖不全を示している。肺機能、腎機能は正常範囲にあった。
手術所見(図Ⅱ-8~Ⅱ-13):胸部正中皮膚切開を加え、皮膚は大胸筋、小胸筋とともに肋骨および胸骨から剝離し、症例1と異なり、胸骨骨膜および肋軟骨骨膜の後面を剝離し、胸骨は第2肋間にて横切り、胸骨・肋骨複合体(costo-sterno complex)を摘出した。したがって肋骨および肋軟骨後面の骨膜とともに内胸動静脈、肋間動静脈、浅膜壁動静脈、肋間筋などはすべて温存された。costo-sterno complexは冷却GIK液にて保存し、第2肋間以上の胸骨は正中切開した。前胸部の欠損部分を開胸器でさらに開大すると十分良好な視野が開け、股動脈送血にて体外循環を施行し、Bentall手術へと移行した。この間直腸温を28℃に保ち、心筋保護はYoung液および冷却GIK液にて冠灌流し、また生理食塩水のice slushによるtopical coolingも併用した。上記操作は心筋温が10~15℃に保たれるよう間欠的に行なった。Bentall手術終了後、trimmingしたcosto-sterno complexを飜転して胸骨は端端縫合とした。各肋骨は右側は胸壁が薄いため第2.3.4.5肋骨は重畳縫合し、第6および対側はすべて端端縫合した。ドレナージは胸骨下および心嚢より持続吸引で行ない、皮下にhemovacを挿入した。

術後経過:術後LOS、心不全もなく翌日レスピレーターからのweaningを行ない、その後37~38℃の軽度熱発が持続したが順調に回復した。術後2か月の大動脈造影では左室への逆流はまったくなく、graft周囲への造影剤の進入もなく、両側冠動脈は術前よりもその口径を増していた。胸部X線にて心陰影は縮小し、胸壁前後径は著明に増加し、3年後の今日に至るまで患者の愁訴はまったく消失している。
【症例3】N.H.,18歳男(図Ⅱ-14~Ⅱ-18)
やはり典型的なMarfan症候群で、漏斗胸は和田分類4度、僧帽弁閉鎖不全はSeller分類4度、SJM31によるMVRおよびmodifiedSTO施行。術後経過は良好。


b.同時手術の背景と意義

心疾患と漏斗胸の両者を伴うものにとっては、この両者の外科治療が必要となる。このうち教室で同時手術3)を施行したものは表Ⅰ-1のように7例であり、そのうち実に4例がMarfan症候群である。

数井ら4)はannulo aortic ectasia手術例17例中Marfan症候群を12例に認めたが、Ellisら5)はMarfan症候群で心血管異常を示すものは36~60%で、そのほとんどがannulo aortic ectasiaであったとしている。教室での最近までの約1,000例の漏斗胸手術症例のうちMarfan症候群は約20例であり、そのうち全例がannulo aortic ectasia、MR、僧帽弁逸脱症候群のいずれかを示した。一方、通常の漏斗胸に心血管異常を合併することは比較的まれで、和田ら6)の統計によれば、ASDが518例中5例(1%)であり、次いでファロー四微症1例(0.2%)としている。Marfan症候群では骨格病変と心血管病変を併発する可能性が高いわけであるから、漏斗胸と心血管病変の合併率が比較的高くなるのだと思われる。結局われわれの経験では、Marfan症候群で手術適応となるほどの漏斗胸を示すものでは、そのほとんどが心血管異常を伴い、その内訳は必ずしもannulo aortic ectasiaに集中していないということになるが、annulo aortic ectasiaの出現頻度は加齢とともに異なると思われるので、今後も注意深い観察が必要であろう(図Ⅱ-19)。
これらの疾患のうち、心血管異常が高度で手術適応となるものに同時手術を施行したわけであるが、同時手術の意義は従来心疾患のみの手術で、漏斗胸は放置されたり、あるいは二期的に手術治療されたが、心疾患のみの治療で漏斗胸を残した場合、患者は治癒したという自覚をもたず、その内向性、精神身体活動への負荷はいぜんとして残り、手術侵襲の割に健全な社会生活は営めず不満が蓄積するものであり、また二期的に漏斗胸を手術することは大動脈や心臓と前胸壁の癒着が高度におきるためきわめて困難となる。これらの理由で同時手術が可能であれば、問題の一挙解決が行なわれ患者の負荷は劇的に改善する。
まずMVRを施行し二期的にSTOを計画して待機していたところ、1年後に脊椎側彎、強度漏斗胸などによると思われる拘束性換気障害にて失った例を経験した。さらに高度の漏斗胸にannulo aortic ectasiaを合併した例で前者のみを根治術した例で、術後漏斗胸による拘束性換気障害による呼吸不全で、レスピレーターからのweaningに難渋した例を経験した。これらの理由からも同時手術が可能なかぎり望ましいと考えている。
この同時手術が可能となった背景を考えてみると、何よりもまずcardioplegiaの出現により開心術そのものが著しく安全となったこと、また術後各種合併症に陥った場合でも、LOSに対するIABPおよび各種カテコールアミンや末梢血管拡張剤などの適正な使用法の研究、開心術後重症例に対するIVH7)の導入、またAAV(adaptive assisted ventilation)8)、IMVなどによる呼吸管理の進歩などによりその救命率が著しく高まったことが最大の原因であろう。
また一方の理由として、漏斗胸に対する外科治療が確立され、さらには洗練の時代に入ったことがあげられよう。教室では和田らの努力によりすでに1,000例の治験を有している胸骨飜転術(sternal turnover;STO)、肋骨挙上術(costal plasty;CP)9)を原点として、著者らのmodified STO (auto strut method)10.11)やSCE(sternocostal elevation)9)などさまざまな術式が考案され、個々の症例に応じた使い分けがなされ良好な結果を得ている。
事実、ここにあげた症例はいずれも重症のMarfan症候群で、漏斗胸の重症度はいずれも和田分類で4度を示しているが、術後の胸壁の形態をみるに、症例1では扁平胸のごとくであるのに対し、症例2、3と進むに従いしだいにその形態を整えてきていることがわかる。

c.同時手術の術式、適応、合併症

開心術、漏斗胸手術とも、それぞれ独立して進歩、発展してきた。それにもかかわらず、この両者を同時に施行するには、新たな理論と実施上のテクノロジーが要請される。
開心術の過程に漏斗胸手術を無理なく、合理的に割り込ます、あるいは逆に漏斗胸手術の過程に開心術を挿入して、両者を有機的に連関させ、あたかも新たな1つの手術術式として行なわれるのが望ましい。
1979年5月、和田によって最初に行なわれたこの術式3)は上記の考えを十分に具現したものであった。
まず胸部正中皮膚切開を加え、次いで漏斗胸の骨性前胸壁のen block resection、片側または両側開胸、costo-sterno complexの作製とトリミングという漏斗胸手術の形で始まり、これを心筋保護液にて冷凍保存する間に開胸器で前胸器で前胸壁の欠損部分をさらに拡げて開心術へと移行し、人工心肺離脱、止血制御とともに通常の閉胸のかわりにcosto-sterno complexを飜転し、胸壁再構成するという漏斗胸手術にて完了する。最近では、このoriginal STOに対し、modified STO (auto strut method)10.11)やSTO-O、SCE9)などが行なわれる傾向にある。ある程度の出血量増大、手術時間延長は避けえないが、上記の相異なる2手術の、合理的・有機的融合により最小限にとどめうる。この同時手術における開心術は、骨性前胸壁が取り除かれているためきわめて良好な視野が得られる。とくに大動脈瘤で心臓が下方に圧排されている場合などには好都合であるし、また大動脈瘤その他で心臓と胸骨が癒着していて胸骨正中切開に危惧をおぼえる場合などには、便利な到達法といえる。しかし、胸骨が欠如しているため開胸器のかけ方には一考を要し、われわれはU字形の保護具で両胸壁をはさんで、これに開胸器をかけている3)。
Modified STOやSTO-O、SCEはoriginal STOが前胸壁のen block resectionであるのに対し、極力前胸部軟部組織、すなわち肋間動静脈、内胸動静脈、肋骨および肋骨骨膜などを温存し、修復後の前胸壁の発育および強度に意を用いたものである。とくに前者においては、これら軟部組織はほぼ完全に温存され、再建胸壁の発育および強度維持に期待がもてる。また、胸骨、肋骨の縫合には重畳引き上げ固定10)を行なっているため、前胸壁前後径の増大および前胸部の生理的膨隆を実現でき、シーネ法などと比べても良好と思われる。
開心術中はcosto-sterno complex、心筋保護液にて冷却保存され、現在この方法でまったく問題はないが、血行遮断されたcosto-sterno complexの数時間の保存には、いかなる処置が必要か今後に検討の余地があろう。
同時手術の適応は心疾患の重症度に左右されようが、症例2などのように、おのおの単独でも非常に困難な手術であることを考慮すれば、相当広範囲に及ぶであろう。術前からIABPなどを必要としたり、術後LOSなどの重篤な合併症を起こさない程度のものは適応となろう。また重症の漏斗胸で肺の拘束性障害が強く、術後に呼吸機能の著明な改善が期待できるような例および漏斗胸を残した場合、術後呼吸管理に難渋するような例では積極的な適応となろう。あるいはまた、相対的手術適応の軽度漏斗胸でも合併する心疾患が比較的軽度で手術侵襲が比較的少ない場合はやはり適応となろう。漏斗胸、心疾患合併者では、前者は体表にあり、後者は体内である。心疾患のみの治療は、生存に対して必要条件であり、かつ絶対的条件であるにもかかわらず、漏斗胸が遺残した場合、患者の失望は大きく、内向し、対社会的活動は不十分になりがちであり、この意味から可及的に同時手術が望ましい12)。
この種の患者は一期的同時手術のみが必要十分条件と考えれる。同時手術の合併症としては、両者におのおの固有な合併症、つまり心疾患に対してはLOS、出血など、漏斗胸に対しては呼吸不全、瘻孔形成などがより高度に起こるのではなかろうかと危惧されるが、実際は初期の1例(case No.4)で出血多量による再開胸および術後瘻孔形成を生じたのみであり、また症例2(case No.5)では術後大動脈の心筋保護液注入部位から出血し、再開胸したが、術後瘻孔なども残さず、STOに悪影響はなかった。前者はoriginal STOであったが、後者はmodified STO (auto strut method)であり、軟部組織の温存が合併症をよく防いだと思われた。他の合併症はなく、結局、丹念な止血操作を加えることによりみるべき合併症はないものと思っている。以上のように重症の心疾患および重症の漏斗胸をあわせもつものに対しても同時手術は可能で、かつ合併症も少なく、最長4年半の術後経過においてなんら問題なく十分に社会生活を営んでいる。今後上記2疾患を合併するものにとっては、この同時手術という新しい“術式”により、より完全な外科修復がなされるべきであろうと考える。

d.まとめ

外科治療の適応となる漏斗胸および心疾患を合併するものに対しては、これら両疾患を同時手術することが可能で、かつ現実的である。
同時手術が可能となった背景は近年における心臓手術の発展および漏斗胸手術の洗練によるところが大きいが、何よりも、これら両者を“同時手術”という合理的、有機的な新しい術式をして創出したことが最大の原因である。
われわれの7例に及ぶ実績から、同時手術は合併症も少なく、重症の両疾患合併者にとっても適応となりうる。同時手術により患者は、より短期間に、より完璧な治癒が得られる。(日野 恒和)

2.漏斗胸に合併したvon Recklinghausen病の一例

von Recklinghausen病と前胸部変形の合併例に対し、胸骨飜転術を施行し、術中前縦隔に多発性神経線維腫を発見したので報告する。

a.症例

17歳男性、生下時より前胸部変形および直径2~5cmの全身褐色斑、直径5mm以下の雀卵斑様色素斑を認める(図Ⅱ-20)。知能、精神には異常を認めない。祖父および従弟に漏斗胸を認めるが、von Recklinghausen病の家族歴はない。

来院時、前胸部中央の陥凹、左前胸部の突出を認める(図Ⅱ-21)。
皮膚所見によりvon Recklinghausen病を疑い検索を進めた。von Recklinghausen病に特有な虹彩小結節を認めたが、表在性腫瘤は認めなかった。また、胸部CT、頭部CTにおいても、腫瘍は認められなかった。
前胸部変形に対し、第2肋間胸骨飜転術を行なった。術中、左前縦隔上部に、最大径3cmの多発性の腫瘍を認めた。図Ⅱ-22は術中遊離した胸骨、肋軟骨の裏面と、それに接する腫瘍である。腫瘍は、左前上部壁側胸膜に沿って多数認められたが、周囲組織、骨への浸潤は認めなかった。可能なかぎり腫瘍を摘出したのち、胸骨飜転術を施行し、前胸部変形は著明に改善した(図Ⅱ-23)。摘出した腫瘍は神経線維腫であった。

b.考案

von Recklinghausen病は2,500~3,000人に1人と比較的にまれな疾患であり、神経線維腫と皮膚色素性病変を主症状とする。患者にとって性差はなく、常染色体優性遺伝が考えられているが、その50~60%は家族歴をもたず、突然変異率は高い。
皮膚病変は、大・小Recklinghausen斑が特徴的である。大Recklinghausen斑はcafé au lait斑といわれよく知られている。
神経線維腫は、神経、皮膚、その他全身の各部にみられ多発するが、悪性化は2~10数%と比較的まれである。
本症例においては、胸部X線写真、CTによっても発見できなかった壁側胸膜多発性神経線維腫を術中発見したが、他に腫瘍は認めていない。
von Recklinghausen病はさらに脳腫瘍、pheochromocytoma, neuroblastoma,貧血母斑、骨の変形、精神症状、知能低下などを随伴する。
新村ら13)によると、その50%になんらかの骨変化を合併し、その原因には、腫瘍による圧迫、破壊、浸潤、先天性骨形成不全、発育不全などが考えられている。本症例においては、前縦隔の腫瘍は小さく浸潤もないことから、胸郭変形の原因になったとは考えにくい。(飯田 浩司)

3.Swyer-James症候群

X線透過性の亢進(hyperlucency)はとかく見落とされることの多い所見である。われわれは漏斗胸術後6か月の胸部X線でunilateral hyperlucencyの像を発見し、その精査でSwyer-James症候群と診断した1例を経験した。

a.症状

7歳男児。
自覚症状:とくになく、漏斗胸術後の定期検査でunilateral hyperlucencyをみつけられ入院となった(図Ⅱ-24)。
入院時検査:理学所見、血液検査はとくに問題ない。
胸部CTでは右上中葉、とくにS3、S1およびS5を中心として肺血管床が少なく、low densityを呈していた(図Ⅱ-25)。

肺血流シンチでは右S1、S3、S4.5付近へのRI分布が減少している(図Ⅱ-26)。
肺動脈造影で右上葉は全体的に血管陰影が乏しく枯枝状であった。患者は低年齢であるため、気管支造影は行なわれなかった。
以上のように、右上葉が他の肺野に比し、きわだってlow densityのため、Swyer-James症候群と診断した。

b.考案

Swyer-James症候群は1953年にSwyerおよびJamesが胸部X線上unilateral hyperlucencyを示す6歳男児の症例を、また1954年にMacleodは同様の所見を呈する18~41歳までの9症例を報告した。これらの症例においては、unilateral hyperlucentを示す他の疾患、たとえばbulla、癌、異物、肺梗塞、胸壁の変化などの原因が認められない。このような例をidiopathic unilateral lungないしSwyer-James-Macleod症候群と呼ぶ。
本症は各年齢層にみられ、多くの場合は小児期に肺感染症の既往を有する。しかし、われわれの症例では肺炎などの既往はなかった。
本症の自覚症状としてはわれわれの症例のように、無症状のものもあるが、息切れ、喀痰などを訴えるものもある。X線所見は一側肺肺紋理の減少またはhyperlucencyである。
本症の気管支造影は患側の太い気道には変化はみられないが末梢では充盈が悪く部分的に気管支拡張症や造影剤のたまりがみられる。
肺血流スキャンではわれわれの症例のように患側の血流の減少がみられる。
肺動脈造影では病巣部の肺動脈全体が著しく細くなっているが、閉塞や欠損はみられない。われわれの症例でも細くて枯枝状を呈していた。
肺機能は軽症ないし中等度の閉塞性障害を示す。
本症の成因としては2つの説がある。
その1つは肺動脈の低形成を原因とするものでその根拠は肺疾患のはっきりした既往のない患者もいること、気道の病変を主因とすると病変の分布があわないこと、組織所見で肺動脈の末梢に変化があることを根拠にしている。
もう1つは気道の病変が主因とする考えで、小児期に肺の感染症が多くの場合に認められること、組織所見で肺胞の気腫性拡張がみられ、肺動脈の変化はごく軽く気道の変化により二次的に肺動脈の変化が招来されたということを根拠にしている。
マイコプラズマ肺炎のあとに本症を呈した症例もみられ、現在では気道系の変化をprimaryとする考えが有力である。(小谷 貢)

4.Morquio病を強く疑わせる骨系統疾患に漏斗胸を合併した小児の一例

骨格に異常をきたし、これが胸郭変形を伴うことは多く、ことにMarfan症候群において脊椎側彎、漏斗胸あるいは鳩胸を合併する症例の頻度は高い19.20)。また、他の全身性骨疾患あるいは代謝性疾患においても胸郭変形を伴うことがある。

a.症例

症例は5歳女児、低身長および前胸部陥凹の精査および手術適応判定の目的にて来院。
家族歴:父方の祖父に軽度の漏斗胸を認めたのみで、他に特記すべきことなく、妊娠分娩に異常なく40週にて出生、生下時体重2,960g、身長49cm、頭囲32cmであった。

現病歴:生後とくに異常なく経過するも2歳頃より身長も伸びが止まり前胸部陥凹および脊椎の側彎が顕著となり始めた。歩行開始は2歳。その後骨格の変形は増悪し近医受診。全身性骨疾患として諸検査および経過観察を受けていた。
入院時現症:入院時身長83cmと低身長で、体重12kgであり、身長、体重ともに平均より標準偏差の3倍を超えて低値をとっている。その他の身体計測値は表Ⅱ-2に示すとおりであった。



顔貌は正常であるが、一見して胸郭の変形、上半身の短縮が著しい(図Ⅱ-27)。
入院時生化学検査:血算、およびホルモン検査ではとくに異常所見を認めなかった(表Ⅱ-3)。心電図では左軸偏位および漏斗胸に特有の所見である右側胸部誘導での陰性P波がみられ(図Ⅱ-28)、全身の骨X線検査では、椎体の変形(oval shape vertebrae)および第8胸椎を頂点とするCobb角41度の側彎(scoliosis)と同部での後彎(kyphosis)(図Ⅱ-29)、両側中手骨近位側の円錐状変形(proximal metacarpal tepering)、両側の基節および中節骨銃弾型変形(bullet like deformity)(図Ⅱ-30)、その他、上下肢の長管骨における骨端核(epiphysis)の変形と骨幹端(metaphysis)の拡大が認められる(図Ⅱ-31、Ⅱ-32)

b.考案

本症例は、その臨床経過および骨X線写真の所見からムコ多糖症Ⅳ型(mucopolysacchar idosis Ⅳ:Morquio病21))を強く疑われ、各種生化学検査、ホルモン検査などが施行されたにもかかわらず尿中にケラチン硫酸(keratosulfate)を証明しえず、骨格系の異常が生後2年経過した頃から著しくなってきたことを考えると、同じ骨軟骨発育障害疾患の中でもspondyloepiphyseal dysplasia congenita (SED congenital)を鑑別診断として考えなれればならない。

また本症例では、入院時身長83cmであるとともにarm spanも83cmと双方の短縮が認められ、short trunk type,short limb type の合併した型に分類される。
小人症(dwarfism)は、大きく2型に分類される。1つは主として軀幹の短縮によって、低身長を呈するshort trunk型と、もう1つは主に下肢の短縮によるshort limb型とである。参考のために骨系統疾患の分類を表Ⅱ-4に示すが、この中でさらに1-hのmatatropic dysplasiaも鑑別の対象となる。
歴史的にみると、初めshort limb typeはachondrodysplasia, short trunk typeはMorquio病とされ、その後顔貌、脊椎変化あるいは内反足、脊柱彎曲、手指、耳介の変形などの有無によってさまざまな分類が加えられ現在表Ⅱ-422)に示すように、その種類は多い。この中でMorquio病は、もっとも全身性の骨端核変化を呈する疾患とされており、他のspondyloepiphyseal dysplasia(SED)との主要な鑑別点は生化学的検索によるムコ多糖類の代謝系での酵素欠損の有無と尿中の各種代謝産物(Morquio糖ではケラチン硫酸)の有無である。
本例では、他院において尿中にムコ多糖類代謝産物を証明されたものの、その物質が従来のムコ多糖症分類のいずれにも該当しないことから確定診断に至っていない。しかしながら、今回の主題は、胸郭変形に対する外科治療の意義および効果を検討することにあった。
全身性に骨端核の変化が認められる本例では、当然肋骨の骨形成においても同様の変化がみられるか、あるいは存在するはずである。しかしながら、漏斗胸を呈する肋骨は肋軟骨とともに正常に比較して延長していることは、われわれが日常臨床例でつねに経験していることであり、SEDにおける変化がそれぞれの骨の長軸方向の短縮という形態をとっていることからすれば、肋骨および肋軟骨延長と関係の深い漏斗胸の形成との間に相反するものがうかがわれ、したがって、本例に認められた脊椎の側彎および後彎が大きく関与していることも推測される。
骨端線の閉鎖により本症例の骨格系の形態異常はその進行を停止すると考えられるが、それまでの間骨格系に対して修正を加えても、その効果ことに長期遠隔における形態修正の効果には疑問も多く、さらに文献的検索においても、胸郭形成はわれわれの知りうる限りにおいて報告もなく、その点について適切な判断をするうえで、通常あるいはMarfan症候群における成績をそのまま適用するには問題が多いと考えられる。
今回入院においても最大の問題はその点にあり、漏斗胸手術における肋軟骨の切離縫合に問題はないと考えられるが、全身的因子を考慮して患者は一時退院し、現在外来にて経過観察中である。しかしながら、前胸部陥凹がさらに顕著となり胸腔内臓器への圧迫症状が出現すれば、その時点において骨端線閉鎖の有無にかかわらず手術適応を考慮する必要がある。 (貝塚 秀樹)

5.冠動静脈瘻

幹動静脈瘻には右房に開口するもの、右室に開口するもの、肺動脈に交通するもの、左房に開口するもの、左室に開口するものなどがある。頻度としては、右房、右室に瘻を形成するものが多く、肺動脈や左房、左室に開口するものは少ない。
わらわれは、漏斗胸患者に左冠状動脈から主肺動脈への交通を合併した2例を経験した。

a.症例

【症例1】 26歳男
主訴:易疲労感。
既往歴:特記すべきことはない。
家族歴:漏斗胸、心疾患はない。
現病歴:生下時より前胸部陥凹に気づくも放置していたが、最近繰り返す上気道感染と易疲労感を認めたため精査加療目的にて昭和59年11月当科入院となった。
入院時現症:身長163cm、体重61kg、脈拍数80/分・整、血圧118/66mmHg。前胸部に強度の陥凹、脊椎側彎、thumb sign, wrist signを認める。心雑音は聴取されなかった。その他特記すべき所見はない。
検査成績:胸部X線像にて心胸郭比52%、心臓は左に圧排されるが著明な肺血管陰影の増強などはない。モアレトポグラフィーにて心窩を最陥凹点とする前胸部変形を認め、gradeⅢの漏斗胸と診断した。
心電図に虚血性変化など異常所見は認められない。
心臓カテーテル検査にて、心内圧心機能は正常で肺動脈レベルでのO2 spet upは軽度上昇を示した。大動脈造影で、大動脈の走向、太さは正常であった。左冠状動脈造影で、冠動脈と肺動脈の交通が認められた。図Ⅱ-33のように、左前下行枝起始部から、異常冠動脈が主肺動脈へ開口していた。冠状動脈造影後、肺動脈もうすく造影された。
手術で、漏斗胸と冠状動脈瘻を一期的になぽすこととした。
皮膚正中切開にて第2肋間胸骨切断によりプラストロンをen blocにて摘出した。
心膜切開後、肺動脈基部を検索すると、肺動脈基部前面および側面に前下行枝より分枝した2本の異常血管を認める。その基部および肺動脈流入部にて異常血管を結紮閉鎖した。心嚢を閉鎖しSTO-Oを行ない、手術を終了した。
術後は合併症もなく順調に経過した。術後10日目に再び冠状動脈造影を行なったところ、術前にみられた冠状動脈瘻はまったく認められなかった(図Ⅱ-34)。


【症例2】 43歳男
主訴:胸部圧迫感。
既往歴:10歳のころ小児結核といわれた。
家族歴:両親の胸郭は正常であった。患者は4人兄弟の長男であるが、弟が扁平胸であり患者の2人の子供のうち長男が扁平胸である。
現病歴:41歳のころより月6~8回、胸がつまる感じがあった。しだいにこの傾向が強くなり、43歳のころより通勤電車の中で動悸や胸部圧迫感を感じるようになった。我慢していると、この症状は3~5分で消失した。外来のMaster二段階試験で陽性を示したので、精査のため昭和61年7月に入院した。

入院現在:身長176cm、体重66kg、脈拍数70/分・整、血圧138/80mmHg、前胸部に軽度の陥凹を認める。われわれの臨床的分類では1度である。脊椎側彎はない。Thumb sign(-)、wrist sign(-)。左第2肋間胸骨縁に3度の収縮期雑音、2度の拡張期雑音を聴取した。心雑音は連続性であり、ボタロ管開存症、冠動静脈瘻などを疑わせた。
検査成績:胸部X線像にて心胸郭比50%、心臓の左方偏位はほとんどない。右側第1弓、2弓も明瞭にみられる。
心電図では、V1に陰性Pを認め、軽度の右脚ブロック型を呈していた。また、Ⅱ、Ⅲ、aVFにてST低下を認めた。Master二段階試験でST低下、T波平低化が著明であった。
心臓カテーテル検査での圧側定値は正常であった。肺動脈でのO2 step upは軽度であった。冠状動脈造影で、No.6のsegmentより異常動脈が肺動脈主幹部に向け起始していた。(図Ⅱ-35)。冠動脈から肺動脈への瘻であることが判明した。ボタロ管開存はみられなかった。冠状動脈造影直後に肺動脈も造影された。
手術では、漏斗胸は軽度なので放置し、冠動静脈瘻のみを結紮した。皮膚を正中切開で胸骨縦切開し、心膜をあけた。癒着はなかった。右房、右室は外見上正常であった。肺動脈起始部に蛇行している異常血管があり、この部に収縮期の拡顫を触知した(図Ⅱ-36)。
異常冠動脈の起始部や末梢部を数か所結紮し、手術を終わった。異常冠動脈の起始部は1か所であったが、肺動脈への瘻孔部は複数個所あると思われた。これら瘻孔と思われる部をすべて2~3重結紮した。患者自身の正常冠動脈を障害しないよう留意した。
術後は合併症もなく順調に経過した。連続性雑音は消失した。

b.考案

冠動脈瘻は先天性疾患の0.2~0.4%といわれ、比較的まれな疾患とされてきたが、近年選択的冠状動脈造影法の普及に伴い必ずしもまれな疾患ではなくなってきた。その中で冠状動脈肺動脈瘻の占める割合は、19%23)または15%24)である。性別頻度では女性にやや多いとの報告がある25.26)。
McNamaraらは、冠状動脈瘻では約20%でなんらかの合併奇形を認めるといっている。当科的2,000例の漏斗胸手術症例中でも、冠動静脈瘻を合併した例はこれら2症例のみであった。冠状動静脈瘻では一般に連続性雑音を聴取され診断の一助となるが、冠状動静脈肺動脈瘻においては雑音は小さく聴取され難い27)といわれる。
症例1では手術前に心雑音が聴取されず、選択的冠状動脈造影法により初めて冠状動静脈瘻の存在が認められた。症例2では弱いながらも連続性雑音を聴取した。これら特徴的な連続性心雑音の最強点は肺動脈弁口部である。
2,000例の漏斗胸患者中、この2例で冠動静脈瘻が合併したが、2例とも肺動脈に瘻を形成していたことは興味深い。前胸壁陥凹と肺動脈への瘻がなんらかの関係をもっているのかもしれない。
漏斗胸患者の8割において、肺動脈弁口部に心雑音を聴取する。この原因として、右室流出路の変形とか、僧帽弁逸脱のためとか、肺動脈変形とかがいわれてきた。ここで述べた2例の経験で、肺動脈への瘻も心雑音形成の一因となるものと考えられる。
冠状動脈瘻の自然経過および潜在的合併症についてHobbsら28)は、瘻の進行性拡大、動脈硬化、細菌性心内膜炎、破裂、coronary steel syndrome、心筋梗塞、肺高血圧症、血栓塞栓症、うっ血性心不全、死亡を指摘している。
冠状動脈瘻の手術適応としては、今野らの基準が一般的である29)。すなわち、
(1) 現在症状がなくても短絡量が30%のとき
(2) 心電図に虚血性変化および負荷の徴候が認められるもの
(3) 肺高血圧の進行が予想されるもの
(4) うっ血性心不全の進行が予想されるもの
(5) 細菌性心内膜炎の既往があるもの
(6) 形態的に冠状動脈に瘤状形成を認め、破裂の危険が考えられるもの
(7) 心雑音が著しく、就学その他、社会的に不利なもの
である。
本症例はこれらにあてはまらないが、漏斗胸を伴っている冠状動脈瘻ではSTO施行時に良好な術野を得られるため、冠状動脈瘻結紮術を一期的に行なうことができるのと、自然経過の中で悪化する可能性などにより手術を施行した。漏斗胸におけるSTO(胸骨飜転術)では良好な術野が得られるため、漏斗胸に合併する心疾患、肺疾患に対し、容易に一期的手術を行なうことができる。
本例のように漏斗胸においては心奇形を合併する場合があるので術前の注意深い精査が必要である。(足立 孝)

6.prune belly症候群の合併

prune belly症候群は腹壁形成不全に尿路系の異常を高率に合併し、ほとんど男子にみられる予後不良の先天性疾患である。われわれは本症候群に漏斗胸および右胸心を合併した女児を経験したので報告する。

a.症例

5歳女児。
主訴:前胸部陥凹および腹部異常膨隆。
家族歴:母親33歳、父親31歳、両親ともに健康、血族結婚ではない。姉妹3人で本症例は第1子である。
現病歴:昭和51年、生下時に腹筋欠損症と診断され、昭和52年に漏斗胸を指摘された。
入院時所見:身長102cm、体重17.2kg、血圧104/68mmHg、脈拍96/分・整。腹部は弛緩、膨隆し、腹腔内臓器の輪郭を容易に観察することができた。腹筋は臨床的に腹直筋しか認められなかった。前胸部には著明な陥凹を認め、典型的な漏斗胸を呈していた(図Ⅱ-37)。入院時胸部X線像は図Ⅱ-38に示すように、CTR55%、正面写真にて前胸部肋骨の下方への著明な偏位、側面写真にて剣状突起部に最陥凹点をもつ胸骨の後方偏位を認めた。また心陰影は右胸心を示していた。心内奇形の検索を目的として心臓カテーテル検査を行なった。心房・心室レベルにシャントはなく、正常圧範囲であった。右房造影にて大動脈まで追跡した結果、心臓は大血管を軸として反時計回転しており、心内奇形や大血管異常は認められなかった。
本症候群には、泌尿生殖器系の奇形を高率に合併することが知られている。本症例に頚静脈性腎盂造影を施行したが、異常はみられなかった。
本症例に対し、胸骨飜転重畳法(STO-O)を施行した。図Ⅱ-39は術後1か月の写真で、前胸部の陥凹はとれている。

b.考案

prune belly症候群は、1839年Frölich30)の報告が最初である。1895年にはParker31)が腹筋欠損に加え、尿路系の奇形が合併していることを初めて記載し、1967年にはWilliams32)が、本症候群の腹部が干しアンズに似ていることによりprune belly症候群と名づけた。
本症例は漏斗胸を合併しているが、このような合併は本邦において奥田33)の報告を初めとする56例中5例34)にみられ、比較的頻度の低い合併である。
本症候群発生原因として、Turner症候群、18trisomyなどの染色体異常の報告があるが、本症例の染色体は正常であった。本症候群はtriad syndromeとも呼ばれ、腹壁筋欠損、尿路奇形、停留睾丸を三主徴とするが、本症例では泌尿生殖器系にまったく異常を認めなかった。また本症例では右胸心以外に先天性心疾患を合併していなかった。
著者らは本例の漏斗胸に対し、胸骨飜転重畳術STO-Oを施行し、満足な結果を得た。腹部に対してはコルセットによる腹壁支持を行なっているが、将来、グルタールアルデヒド処理の静脈片または心膜紐を皮下にらせん状にはわせるなど、人工腹筋を作製することも考えられる。

7.横隔膜弛緩症との合併

漏斗胸症例に部分的横隔膜弛緩症の合併例を経験した。右側心横隔膜角異常陰影は他疾患との鑑別にも重要であるが、漏斗胸との横隔膜弛緩症との合併は文献上きわめてまれであるので報告する。

a.症例

3歳女児。
主訴:前胸壁陥凹。
既往歴:乳児健診で臍ヘルニア、先天性内反足を指摘された。
現病歴:生下時より前胸部の陥凹は認められた。乳児期より風邪をひきやすく、喘鳴を伴うことが多かった。生後3歳6か月(1981年11月)のとき、漏斗胸に対する手術目的で当科を受診した。Ⅲ度の対称性漏斗胸のほか右心横隔膜角の異常陰影が指摘された。
入院時現在:体格は中等度、脈拍数90/分・整。血圧100/60mmHg。心尖部にⅠ音の分裂、最陥凹部にⅠ音の亢進、肺動脈領域でⅡ音の分裂と亢進およびⅠ/Ⅵ度の収縮期雑音を聴取した。呼吸音正常、表在リンパ節は触知しない。立位で腹壁の膨隆を認めたが、肝、腎、脾は触知しない。肺肝境界は第5肋間、前胸壁陥凹が著明で、剣状突起部が最深部となっている。左右対称型のⅢ/Ⅳ度漏斗胸であるが、両側肋骨弓の突出および両側のHarrison溝を認めた。
一般検血、血清生化学検査、肝機能、腎機能および尿一般検査はいずれも正常範囲であった。a-フェトプロテインも正常範囲であった。
胸部単純X線写真(図Ⅱ-40):心陰影の左方偏位、前胸壁肋骨走向の急な傾斜、胸骨陥凹、straight back syndromeを認めた。右側横隔膜と心陰影の部に横隔膜の挙上を思わせるような異常陰影がある。両側肺野は正常である。横隔膜ヘルニアを示すsign of cane35~37)はみられない。
心電図所見:107/分の洞整脈、不完全右脚ブロック型を呈し、胸部誘導V1のP波は陰転している。V1のT波も陰転し、平均前額面電気軸は+70度である。心肥大の所見はない。
右側横隔膜部異常陰影精査のため、CTスキャン、超音波検査、食堂造影、胃透視などを行なったが、はっきりとした結果は得られなかった。肝シンチグラム所見:異常陰影が右横隔膜部にある。この陰影は肝臓であり、胸部X線でみられた陰影と一致する。

以上のことから、右側部分的横隔膜弛緩症と診断し、1981年11月25日、漏斗胸に対する胸骨飜転術を施行した。また同時に右側開胸し、異常陰影部を検索すると、その部の横隔膜は半球状に隆起し、隆起部横隔膜は白色調であった。隆起部の周辺は厚い靱帯状組織によりとりかこまれていた(図Ⅱ-41)。
横隔膜にを加え、横隔膜、肝の生検を行ない、弛緩した横隔膜部を層状に縫縮し結節縫合した。これによって右側胸腔側に突出した横隔膜位置は、下方に偏位した。
病理所見:弛緩した横隔膜の部位は、硬化した結合織で構成され、筋成分は認められない。また肝は腫大した肺細胞が認められているが異型性はない。
術後経過:術後は順調で、X線上の異常陰影も消失し、第20病日で退院した。手術後すでに5年を経過しているが右横隔挙上は著明に軽減し、正常位を示し、漏斗胸の術後経過は良好である。

b.考案

部分的横隔膜弛緩症は、しばしば横隔膜ヘルニアとの鑑別が必要となる。横隔膜弛緩症は右側に圧倒的に多く、横隔膜の前方中心部より好発する。横隔膜弛緩症全体としてみると、小児では横隔膜は部分的な弛緩の形をとり、近縁に十分な筋線維の残っていることが多い。一般には部分的横隔膜弛緩症は手術的治療が必要ないことが多いが、消化管の通過障害、反復する上気道感染などがみられるときは、手術適応となる。本例では漏斗胸手術と合併していたので、弛緩症に対しても同時外科治療の適応があると判断した。手術法としては弛緩した横隔膜を重層補強(plication)するのみで十分であった。
鑑別診断としては、横隔膜ヘルニア、肝腫瘍、縦隔腫瘍、横隔膜下腫瘍、横隔膜腫瘍、心膜嚢腫などがあげられるが、本症例の診断において、肝シンチグラムが有用であった。(笹生 正人)

8.心臓ペースメーカー植え込み症例

最近の心臓ペースメーカー治療の進歩はめざましく、洞不全症候群や房室ブロックなどの徐脈性不整脈のみならず、頻脈に対しても用いられるようになっている。しかし文献上、漏斗胸患者におけるペースメーカー治療の報告はみられない。また、漏斗胸と洞不全症候群(sick sinus syndrome)などの不整脈との関係についての報告もみられない。
東京女子医科大学胸部外科では、これまでに洞不全症候群を伴った漏斗胸5例を経験した。そして、これら5例に対して胸骨飜転術(sternal turnover;STO)とペースメーカー植え込み術を同時に施行し、全例とも良好な結果を得た。
ここでは、同時手術を中心として、漏斗胸におけるペースメーカー治療について、われわれの経験した症例を呈示する。

a.症例

【症例1】 I.Y., 24歳男性
主訴:前胸部変形、動悸
現病歴:生下時より前胸部変形を認めていたが放置していた。18歳のころより動悸がしだいに増強し、軽度なめまいやたちくらみを訴え、昭和56年6月15日当科入院となった。

入院時所見:術前の心電図において洞房ブロックが認められた(図Ⅱ-42)。また、gradeⅡの漏斗胸があり、術前の胸部単純写真では、漏斗胸に特徴的な所見すなわち心臓の左方移動、前部肋骨の急な斜走を認め、側彎症を伴っていた(図Ⅱ-43)。電気生理学的検査を実施したところ、洞機能回復時間は1,700msであり、毎分60回の心房ペーシングにてA-Hブロックを生じた。H-V間隔は50msと正常であった。また、ホルター心電図では、夜間30/min台の徐脈を認めた。このため、洞不全症候群、房室ブロックを伴った漏斗胸と診断した。
本例に対し胸骨飜転術およびペースメーカー植え込み術を昭和56年6月29日同時に施行した。心室刺激閾値はパルス幅1.0msで2.2mA、1.5Vであった。ペースメーカー(Medtronic社製5985型)は、心拍数50のVVIモードとし、パルス幅0.2ms、電圧5V、感度2.5mVに設定した。ペースメーカー本体を左大胸筋下へ植え込んだ。術後経過は良好である。
【症例2】J.Y., 20歳女性
主訴:前胸部変形、失神発作。
現病歴:生下時より前胸部変形を認めていたが放置していた。20歳のとき検診にて不整脈を指摘された。また、失神発作を起こしたため昭和58年8月5日当科入院となった。
 
入院時所見:術前の心電図においてはP波は少なく、洞停止と心室補充収縮を呈していた(図Ⅱ-44)。また、gradeⅡの漏斗胸があり、術前の胸部単純写真では、漏斗胸に特徴的な所見を認めた(図Ⅱ-45)。このため、洞不全症候群を伴った漏斗胸と診断した。
 


手術:昭和58年8月9日胸骨飜転術とペースメーカー植え込み術を同時に施行した。刺激閾値はパルス幅が1.0msで心房1.0mA、0.5V、心室0.8mA、0.4Vであった。心房・心室刺激用ペースメーカーすなわち、dual chamber pacemakerを植え込んだ。術後はペースメーカーをDVIモードで心拍数50、電圧5V、A-V間隔250msに設定した。術後の胸部単純写真において、右心房および右心室に縫着した心筋電極と左上腹部皮下へ植え込まれたペースメーカー本体(Medtronic社製7000A型)を認める。術後経過は良好であった。
 
【症例3】S.Y., 13歳男性
 
主訴:前胸部変形、失神発作。
 
現病歴:生下時より前胸部変形を認めていたが放置していた。13歳のとき突然に失神発作を起こし、昭和58年11月30日当科入院となった。
 
入院時所見:術前の心電図で洞性徐脈を認め(図Ⅱ-46)、Holter心電図では約5秒間の心停止が認められた。また、術前の胸部単純X線写真では、漏斗胸に特徴的な所見を呈した(図Ⅱ-47)。このため、洞不全症候群を伴った漏斗胸と診断した。
 

昭和58年12月2日胸骨飜転術とペースメーカー植え込み術を同時に施行した。刺激閾値はパルス幅が1.0msで心房4.1mA、1.7V、心室0.7mA、0.4Vであった。術後はペースメーカー(Medtronic社製7000A型)をDVIモードで心拍数70、A-V間隔250ms、パルス幅0.5ms、電圧5Vに設定することにより心拍数70の心房心室順次ペーシングとなっている(図Ⅱ-46)。術後経過は良好である。
以上の3症例のほかに、同様の診断の2症例(20歳男性、28歳男性)を経験した。この2症例に対しても胸骨飜転術とペースメーカー植え込み術の同時手術を施行し良好な結果を得ている。

b.考案

1967年Lown38)は、心房細動に直流除細動を試みても洞調律に戻らない症例に対して洞不全症候群(sick sinus syndrome)という診断名を初めて用いた。翌年になりFerrer39)は洞不全症候群を心房の疾患としてとらえ、その定義を述べている。彼はその中で、洞性徐脈、洞停止、洞房ブロック、補充調律、慢性心房細動などをあげた。その後、研究が進むにつれて、洞不全症候群の中には頻脈性不整脈を発作的に呈する症例のあることが明らかとなった。上室性頻脈、心房細動、心房粗動などの頻脈である。このような症例を徐脈頻脈症候群(bradycardia tachycardia syndrome)という。
洞不全症候群の分類は、Rubensteinの分類40)がよく用いられる。これによれば、症例1と2はⅡ型、症例3はⅠ型となる。
洞不全症候群は種々の基礎疾患があげられているが、狭心症や心筋梗塞などの冠状動脈疾患がとくに多いとされている。このほかに、突発性心筋症、高血圧症、リウマチ性心疾患、心筋炎などもあげられている。しかしながら、実際には基礎疾患の不明なことが少なくない。われわれの経験した5症例においても基礎疾患を認めるものはなかった。漏斗胸と洞不全症候群を伴った漏斗胸を5症例経験した。このため、漏斗胸が洞不全症候群の1つの誘因となる可能性は否定できないと考えられる。すなわち、漏斗胸による心臓の圧迫や転位が洞結節機能へなんらかの影響を及ぼすことが考えられる。ここで述べた5例以外で、ペースメーカーの植え込みにはならなかった症例でも、徐脈傾向を示す漏斗胸患者は多い。
胸骨飜転術(sternal turnover;STO)は、和田により1959年に初めて施行されたが、現在に至るまで数多くの改善が加えられて、洗練された手術となっている。その遠隔成績もきわめて良好なものである。一方、ペースメーカー植え込み術もペースメーカー本体の急速な進歩とともにより安全かつ確実な手術となっている。洞不全症候群はペースメーカー植え込み術が治療の主流となっている。また、洞不全症候群の場合には心室ペーシングよりも心房ペーシングがすぐれていることも明らかにされている。
同時手術に際しては、胸骨プラストロンを切離したあとで、心膜切開を加えて、心房・心室にそれぞれ電極を縫着する(図Ⅱ-48)。
心房電極としては、心内膜用電極を用いて心房壁にマットレス縫合により固定する。このとき右心耳よりもcrista terminalisのほうが波高の高いP波が得られて心房デマンド機構が作動しやすいとされている。心室電極としては、ねじ込み式心筋電極を用いた。このとき、心室の脂肪組織を避け、心筋自体にねじ込むと低い刺激閾値が得られる。
心房・心室に電極を縫着したあとは、心膜内にドレーンを留意し、胸骨プラストロンを再固定すればよい。このあとは通常の胸骨飜転術と同様である。心膜内に入れたドレーンは手術後1週間以内に抜去できる。胸骨飜転術のためドレーンも同じころ抜去できる。

ここで述べた症例2、症例3では、心房・心室順次ペーシングとしたが、ペースメーカーのモードをDVIとした。これは心室心房逆伝導による頻拍発作を予防するためである。われわれは、ほとんどのペースメーカー症例にDDDモードを原則としているが、逆伝導のある症例では、DVIモードを選択している。
胸骨飜転術とペースメーカー植え込み術の同時手術を行なうことにより、1回の手術で漏斗胸と不整脈を同時に治すことができる。そして、手術侵襲を減少することができる。この同時手術は両側とも開胸にならず、術後管理も容易である。患者は、手術後2週間以内に退院している。
われわれの経験した5症例はいずれも術後順調に経過しており、この同時手術は新しい外科治療方法として意義のあるものと考えられる。(神楽岡治彦)

9.発作性上室性頻拍症を伴った症例

今回われわれは発作性上室性頻拍症(PSVT)を伴った小児漏斗胸の一症例を経験し、それに対し、胸肋挙上術(SCE)と心房頻回刺激装置(rapid atrial stimulator)植え込み術を同時に施行した。

a.症例

W.T., 6歳男児。
主訴:前胸部変形、動悸。
家族歴:漏斗胸(従兄)、心疾患(従兄)。
既往歴:反復する肺炎。

現病歴:生下時より前胸部陥凹を認めてたが放置していた。生後10か月時、近医にて初めてPSVTを指摘された。以後、ジギタリス、B-ブロッカーを投与されたが、これらの薬物的治療にもかかわらず、週1回程度の発作を繰り返した。発作の持続時間は、ときに4~5時間に及んだ。1985年7月5日、漏斗胸およびPSVTの治療目的で入院となった。

入院時所見:モアレトポグラフィー、胸部CTでは、中等度の前胸部陥凹を認め、胸部単純X線像では、漏斗胸に特徴的な心臓の左方移動、Cobb角5°の側彎症とともに、胸骨の陥凹を認めた(図Ⅱ-49~Ⅱ-51)。心電図V1に陰性P波を認め、Ⅱ、Ⅲ、aVFのT波は陰転していた(図Ⅱ-52)。血液生化学的検査では、とくに異常を認めなかった。
電気生理学的検索:経皮電極カテーテル法により心臓の電気生理学的検査を施行した。検査前4日間はすべての投薬を中止した。房室結節の機能的不応期は380msであった。Overdrive suppression testでは、心房ペーシング基本調律120/minでの最大洞結節回復時間は1,070msと正常域であった。180/minの心房ペーシングでPSVTが誘発された。心房ペーシング基本調律120/minにおいての心房期外収縮作製試験(programmed pacing)では、S1~S2:250~280msのエコーゾーンを認め、PSVTは容易に誘発され、再現性を認めた。PSVT時の心拍数は180/minであり、心房頻回刺激によりPSVTは消失した。本症例のPSVTに対し、rapid atrial pacingが有効であることを確認した。そのため、PSVT治療のため、小型軽量の心房頻回刺激装置(RAS)植え込みの適応であると考えた。
手術:1985年7月15日、胸肋挙上術(SCE)とRASの植え込み手術を同時に施行した。
正中皮膚切開により胸骨肋骨を剝離露出し、両側の第Ⅲ~Ⅶ肋軟骨を胸骨両縁より切離した。その後、胸骨を挙上することで視野を確保し、心膜を切開した。右心房にMedtronic社製心内膜J型双極電極Model 4512-53を縫着した(図Ⅱ-53)。その後、Ⅲ~Ⅶの肋軟骨を切除短縮し、胸骨に縫着して骨性胸郭を形成、胸肋挙上術を終了した。次いで、右肋骨弓下の筋層下に、Medtronic社製5998型RASを植え込み、手術を終了した。このとき、電極の刺激閾値は1.8mAであった。RAS刺激頻度は300/minに設定した。


術後経過:術後のモアレトポグラフィー、胸部CTでは、骨性胸郭の著明な改善を認めている(図Ⅱ-54、Ⅱ-55)。胸部単純X線像においても前胸壁陥凹の改善を認めている(図Ⅱ-56)。外見上、RAS本体の植え込み部の突出も著明ではなかった(図Ⅱ-57)。術後経過良好で、手術後6日目に退院した。日常生活においてもPSVTは、RASによるoverdrive suppressionにより容易に消失している(図Ⅱ-58)。

b.考案

漏斗胸の不整脈合併に関する詳しい報告は少なく、両者の関係は明らかではない。現在までに、漏斗胸手術とペースメーカー植え込み術の同時手術を9例経験している。5例は、洞機能不全症候群であり、2例は洞機能不全症候群に房室ブロックを合併したもので、1例がWPW症候群、1例が本症例である。すでに神楽岡ら43)が、洞機能不全を伴った漏斗胸の症例について報告している。本症例以外の8例は成人であり、burst機構をもつDDD型ペースメーカー植え込みと、漏斗胸に対する胸骨翻転術(STO)を同時に施行した。いずれの症例もペースメーカー植え込みに際し、胸骨を切除することにより良好な視野が得られた。

本症例は、薬物的治療にもかかわらずPSVTが多く、小児で、身体も小さいことを考慮し、RASを用いた。この5998型RASは、transmitterとreceiverからなり、体外からtransmitterのボタンを押している間のみ、無線で460kHzのpulse signalが発せられ、これを体内に植え込まれたreceiverが受けpacingを行なうものである44、45)(図Ⅱ-59)。
PSVT時患者本人がそれを自覚し動悸を訴えることから、母親を指導して、RAS植え込みの十分な適応があると考えた。
ただ、本症例における現時点での問題は、登校中など、両親が患者といっしょにいない場所で発作が起きたとき、停止させることが困難だということである。しかし、数年後には、患者自身でのRASの操作が可能になると思われる。

本症例の漏斗胸に対しては、6歳の小児ということで、胸肋挙上術(SCE)を施行した。肋骨翻転術(STO)と違い、胸骨の切除は行なっていないが、肋軟骨を切離し、胸骨も挙上することによりSCEにおいても十分良好な視野が得られ、手術操作も容易であった。

c.まとめ

発作性上室性頻拍症を伴った小児漏斗胸の一症例を治験した。
小児の発作性上室性頻拍症に対し、小型軽量の心房頻回刺激装置(RAS)を用いて良好な結果を得た。
RAS植え込みに際し、胸肋挙上術との同時手術は、視野も良好である。(小野  貢)

10.漏斗胸、annulo aortic ecasia, 解離性大動脈瘤(De Bakey I型)、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症、発作性上室頻拍症、両側性多発性肺囊胞を合併した末期Marfan症候群の一例

Marfan症候群は遺伝性結合組織疾患で、骨格系病変、心血管系病変、眼病変を主症状とする症候群である。漏斗胸をはじめとする胸郭変形疾患を合併する率が高い。われわれは今回、高度な漏斗胸にannulo aortic ectasia, 解離性大動脈瘤(De Bakey I型)、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症、発作性上室頻拍症、両側性多発性肺囊胞を合併した末期Marfan症候群の一症例を経験したので報告する。

a.症例

38歳男性(図Ⅱ-60)
主 訴:前胸部陥凹、動悸。
家族暦:従兄弟に漏斗胸が認められている。
既往歴:特記すべきものはない。
現病暦:生下時より前胸部陥凹が認められていた。6歳時よりしだいに前胸部陥凹が増強していったが放置していた。1985年2月背部を腰部まで下行する激しい痛みを覚え近医を受診したところ急性胆囊炎の診断を受け約1か月間入院した。入院後頻拍発作、心悸亢進が出現するようになった。その後当科紹介され、同年9月18日漏斗胸手術目的にて入院となった。
入院時所見:身長178cm、体重55kgと長身瘦軀である。クモ状指趾を認め、metacarpal indexは8.6と異常であった。thumb sign, wrist signはいずれも陽性であった。胸郭においては中等度の後彎を認める。前胸部陥凹は非常に高度で、漏斗胸重症度のgrade Ⅳであり、F2I 1.2646)、water volume 520mlと高値を示した。眼科所見では水晶体脱臼はないが、右1.2、左0.2と左眼の著明な視力低下が認められた。
血圧152/90で左右差なし。脈拍は96・整であった。心所見では心尖部に最強点を有するLevine Ⅴ/Ⅵの汎収縮期心雑音が聴取された。
検査結果:血液・尿一般検査にはとくに異常を認めなかった。

呼吸機能検査では一秒率87%と正常であったが、肺活量2,160ml、%VC62.89%と低下し、拘束性肺機能障害が認められた。
胸部X線写真所見(図Ⅱ-61):CTR56%、左第1弓、3弓の突出、高度な胸骨陥凹。後・右側彎症(Cobb角10°)。心臓の左方への圧排偏位が認められた。また両肺尖部に肺囊胞を認め、とくに左肺尖部のものは大きいものであった。
心電図所見:入院時心電図は正常洞調律で時計方向回転。平均前額面QRS電気軸は+90°で(図Ⅱ-62)正常。またV1のP波陰転、V1, V2のT波陰転など漏斗胸一般における心電図所見47)を認めた。入院中のモニター心電図およびホルター心電図で心拍数180/分の発作性上室性頻拍発作を頻回に認めた(図Ⅱ-63)
心エコー所見(図Ⅱ-64):僧帽弁前尖の逸脱およびannulo aortic ectasia, 大動脈解離所見が認められた。
心臓カテーテル検査所見:圧データはとくに異常を認めなかった。心房刺激にて発作性上室性頻拍が容易に誘発されたが、洞結節回復時間。房室結節不応期は正常範囲内であった。
心血管造影所見:左室造影にて僧帽弁逸脱およびSellers分類Ⅱ°の逆流が認められた(図Ⅱ-65)。また大動脈造影では約60mm径の高度なannulo aortic ectasia, Sellers分類Ⅰ°の大動脈弁閉鎖不全症、大動脈基部より始まり、総腸骨動脈分岐部まで達する解離性大動脈瘤を認め(図Ⅱ-66)、解離性大動脈瘤のentryはバルサルバ洞付近、re-entryは腎動脈上部に認められた(図Ⅱ-68)。

胸腹部CT所見:高度な胸骨陥凹および心臓の左方への圧排所見を認めるとともに、annulo aortic ectasia, 上行大動脈基部より総腸骨動脈まで達する解離性大動脈瘤の所見を認めた(図Ⅱ-69)。
気管支ファイバースコープ所見:気管、左右主気管支、さらに左底管にかけて前後方向の圧迫による楔状狭窄が認められた。



以上の所見により、本症例は高度漏斗胸、annulo aortic ectasia, 解離性大動脈瘤(De Bakey Ⅰ型)、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁逸脱を伴う僧帽弁閉鎖不全症、発作性上室性頻拍症、両側性多発性肺囊胞を合併した末期Marfan症候群と診断され、治療方針が検討された。

心血管系病変は非常に重症で根治手術が困難であること、漏斗胸に関してはSTO-Oを施行することも検討したが、重症心血管系病変、両側性多発性肺囊胞が存在し、全身麻酔下で手術を施行すること自体に危険が伴うこと、また非常に高度な漏斗胸であり、手術手技がむずかしいことなどにより手術を見合わせることとした。しかし発作性上室性頻拍症に対しては、自覚症状を改善し、心機能悪化を防止するためにペースメーカー植え込み術を施行しDDD+atrial burst modeに設定した(図Ⅱ-70)。術後自覚症状改善し、発作性上室性頻拍発作も減少したため退院とし、現在外来にて経過観察中である。

b.考案

Marfan症候群は先天性結合組織異常による病変であり、annulo aortic ectasia, 大動脈弁閉鎖不全症、解離性大動脈瘤、僧帽弁閉鎖不全症などの心血管系病変、水晶体脱臼、強度視力低下などの眼病変、肺囊胞症、自然気胸などの肺病変、漏斗胸、鳩胸、後側彎症などを合併する疾患である。とくに心血管系病変、漏斗胸、後側彎症などの胸郭変形は合併率が高く、当施設においても、漏斗胸を主訴として受診した患者にMarfan症候群の診断基準48)(①骨病変、②眼病変、③心血管系病変、④家族内発生のうち2項目以上)を満たす典型的Marfan症候群、あるいは不全型Marfan症候群がかなりの割合で認められる。また漏斗胸に心血管系病変を合併する率は10%といわれている49)が、Marfan症候群であるものが多い。しかもMarfan症候群の自然予後は不良で、とくに心血管系病変を有するものは非常に予後が悪く、20~40歳代で死亡するとの報告が多い48,50,51)。したがって漏斗胸患者にMarfan症候群が合併しているか否かの鑑別が重要である。本症例も高度漏斗胸を主訴として受診し、手術目的にて入院となったが、心血管系病変、肺病変を伴う末期Marfan症候群であることが判明したため、単に漏斗胸に対して根治手術を施行するわけにはいかなかった。
このような予後不良のMarfan症候群に対して、予後をできるだけ改善すべく手術時期、術式が検討されている。annulo aortic ectasiaにおいてAAE最大径が50mmを超えると大動脈閉鎖不全症を合併し、60mmを超えると解離性大動脈瘤を合併する頻度が高くなることから、AAE最大径が50~60mmを手術時期とする報告がある52)。また狭心痛や心不全症状出現後2年以内に死亡する例が多いことから、これらの症状が出現する以前の手術が望ましいとされている。
本症例ではすでにDe Bakey I型の解離性大動脈瘤が存在し、大動脈閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症を合併していること、さらに解離性大動脈瘤の偽腔から右肺動脈へのシャントが認められたことから心血管系病変は非常に重症であると思われ、根治手術は困難であると考えた。さらに漏斗胸に対する手術に関しても、重症心血管系病変、多発性肺囊胞の存在を考慮すると、麻酔および手術侵襲そのものによる危険が伴うと考え、手術を見合わせることとした。発作性上室性頻拍症に対しては心悸亢進という主訴を改善し、心機能悪化を防止する意味でペースメーカー植え込み術が必要であると考え、局所麻酔で手術できることから手術を施行した。
本症例のような末期Marfan症候群に対する手術は手術が予後を改善すると判断されたときに施行すべきであると考えられるが、今後さらに詳細な検討が必要であると思う。(小山 邦広)

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