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みんなの教科書『胸郭変形』

胸郭変形

※一部グロテスクな表現のある画像があります。
心臓の弱い方は注意して御覧ください。

1.鳩胸の形態

鳩胸は胸部変形疾患の1つであるが、患者が胸部の変形について触れたがらず隠し続けるため、一般の医家が遭遇する機会は比較的低い。自覚症として前胸部の変形以外に顕著なものを認めず短期間に死に至る症例はまれである。
漏斗胸と鳩胸の比率は6:1から10:1の間といわれているが1)、教室における統計では約50:1となっている(図Ⅲ-1)。


一般に鳩胸と呼ばれるものの中には、樽状胸を意味する場合がしばしばある。鳩胸は心疾患に合併するものを除けば漏斗胸の近縁疾患であり、漏斗胸と同じく肋骨および肋軟骨の過長とその走行異常を認め、脊椎側彎症を伴う。肋骨および肋軟骨の過長は漏斗胸とは逆に胸骨を前方に突出させる。この胸骨の突出は顕著な特徴を有する。pouter pigeon breastとkeeled pigeon breastの2型に分類できる2)(図Ⅲ-2)。すなわちpouter pigeon breastは胸骨柄および胸骨体上部の異常な突出があり、胸骨体中部から下部にかけての陥凹をなし、再び胸骨体下部から剣状突起に向けて前方に突出するものである。pouter pigeon breastの胸骨矢状断はほぼZ字状といえる。胸骨陥凹において肋軟骨は内部に向かって傾斜しており、ある面ではpouter pigeon breastは漏斗胸の一型とも考えられる。このため漏斗胸との鑑別診断はしばしば困難なことがある。胸骨柄部が前上方に陥凹しているものを漏斗胸と定義づけるものもあるが、この境界型についてはほとんどの症例を漏斗胸とするほうが実状に即していると考える。しかしながら鳩胸の一型のpouter pigeon breastを念頭においたうえでの診断が必要である。
keeled pigeon breastの前胸部突出では、胸骨はその上部よりも中部および下部において異常な突出をなし、剣状突起部近傍がもっとも突出している。胸骨の矢状面は直線状から弓状をなし、剣状突起は付着部位より後下方に向かう。このkeeled pigeon breastはchicken breastもしくはピラミッド胸と呼ばれている。左右の第5~6肋骨および肋軟骨に一致した部位がある程度の対称性をもって陥凹しているが、これをHarrison溝という。患者の主訴は前胸骨の突出とともに、Harrison溝周辺の陥凹であることが多い。この陥凹は第3、第4肋骨および肋軟骨の過長と第5肋骨および肋軟骨が比較的正常の長さに近いこと、および第6、第7肋骨肋軟骨の過長に起因している。
これらkeeled pigeon breastの胸郭における特徴はあとに述べる手術術式において過長肋軟骨を切除する際に漏斗胸と異なる点であり注意を要する。非対称性鳩胸という分類を行なったものもあるが、偏側性の前胸部突出には必ず対側の陥凹を伴っており、著者らは非対称性漏斗胸という陥凹部分からの分類を主として用いている。この点については、pouter pigeon breastの分類と同様に、鑑別診断について非常に微妙なものがあり、非対称性鳩胸という診断名をつくらないことがもっとも簡潔であると考えている3)。
鳩胸の成因については、漏斗胸と同様多くの可能性について述べられている4~6)。前胸部の変形が漏斗胸の場合、生下時より認められることがしばしばであるが、鳩胸では3歳以前に認められることはまれで、ほとんどの場合就学期以後に発見される。鳩胸の前胸部変形は前胸部を叩打などの事件をきっかけに発見されることもあり、その変形はしだいに強くなってきているとの訴えがしばしばある。
鳩胸が患者に及ぼす影響としては、精神的な面もさることながら、気管支喘息の合併を認めるものもあり、また心エコーや左室造影により僧帽弁逸脱症の所見をみることもある7)。治療については、理学療法や運動、整形外科的装具などにより前胸部突出の軽減をみたという報告もあるが8)、鳩胸の胸郭変形病態の根本を考えてみれば、外科治療が必要である。

2.手術術式

教室で取り扱った鳩胸は31例(男26例、女5例)である(表Ⅲ-1)。年齢は3歳から39歳であった。31例中、pouter pigeon breastと診断したものは1例のみで、他の30例はすべてkeeled pigeon breastであった。
術式は胸骨翻転術と、胸骨沈下術とに分けることができる。

a.胸骨翻転術(sternal turnover ; STO, 図Ⅲ-3)

突出部に一致した正中または乳房下横切開を行ない、大胸筋、腹直筋を胸骨、肋軟骨、肋骨から剝離する。男性の場合は皮下脂肪組織が少なく縦切開を、女性の場合は美容上の問題を考慮し、横切開を用いる。
左右の肋軟骨および肋骨は突出の始まる部位にて肋骨弓部より上方に向かって切断する。切断部の両脇をタオルクリップで牽引挙上することにより肋軟骨膜下に切断することが可能である。肋軟骨膜は胸骨に向かって肋軟骨より剝離し、胸肋関節の部位にて肋軟骨より切離する。この操作で壁側胸膜の損傷を防ぎうる。両側の内胸動静脈は肋軟骨膜に付着して縦隔側に残る。胸骨は多くの場合第2肋間にて切断しplastronを取り出す。内胸動静脈、上腹壁動静脈、肋間動静脈そして大胸筋裏面よりの出血を注意深く止血する。plastronに付着する肋間筋および胸横筋は可及的に除去する。plastronに付着する肋間筋および胸横筋は可及的に除去する。plastronの凹型変形をきたしている部分に割線を入れて、これを伸展させる。割線は強度を考慮して必要最小限にとどめる。

plastronを取り出した時点で過長肋軟骨をあらかじめ切除しておくという考え方もあるが、鳩胸はすでに述べたように第4肋骨および肋軟骨と第5肋骨および肋軟骨において著しく長さが異なり、切除長を予測することが困難なため過長肋軟骨切除は肋軟骨縫着時に行なうことが好ましい。胸骨は強い2本の綱線(φ=0.75mm)にて確実に固定する。次いでタオルクリップにて体側の肋骨および肋軟骨を引き上げ、余剰の肋軟骨部分の観察を行ない、切断面を適合させるべき、また胸郭全体のバランスを考慮したうえで、過長肋軟骨をplastronから切除ののち3号TevdekNo.3糸にて縫合固定する。取り付けたplastronの上下に1/8インチまたは3/16インチ径の排液管を1~3本挿入する。筋層、皮下組織、皮膚を縫合して手術を終わる(図Ⅲ-4)。

胸骨翻転術は胸骨柄、胸骨体、肋軟骨、肋骨の関係を一度バラバラにして考えることができることからも、鳩胸のような比較的遭遇することがまれな胸郭変形疾患に対して推奨できる術式と考える。

keeled pigeon breastの肋軟骨は漏斗胸と異なり第3、第4肋軟骨で著しく漏斗胸と同様な過長肋軟骨切除を行なった場合には、術後胸骨の突出こそ軽減されるものの、Harrison溝に一致する陥凹は依然として残る場合もありうるので注意を要する。
pouter pigeon breastの場合、第2、第3肋骨および肋軟骨が突出しており、この部位の肋軟骨過長が顕著である。第2肋間胸骨切断による胸骨翻転術を施行する場合でもこれに加えて第2肋軟骨の切除を必要とする場合がある。

b.胸肋沈下術(sterno-costal depression; SCD)

本術式は鳩胸の前胸部突出が肋軟骨の過長に起因していることに着目し、これを切除して正常の肋骨・肋軟骨長にすることである。以前より過長肋軟骨切除術(shortening of the cartilages)と呼称し施行してきた術式である。肋軟骨が左右に牽引し合う力により胸骨を沈下または隆下させ理想的な胸郭形態を得ることができる(図Ⅲ-5)。
本術式は漏斗胸の胸肋挙上術より若干高齢の15~17歳以下の症例に適応と考える。
胸骨翻転術と同様に胸骨、肋軟骨、肋骨を露出したのち、第2または第3肋軟骨より第7肋軟骨までを胸肋関節の近傍にて切断する。肋軟骨膜は強度を考慮して剝離を最小限とし肋間筋を側方に至るまで切離し肋骨および肋軟骨の可動性を十分とする。タオルクリップを用い過長部分を決定の後切除する。過長肋軟骨切除は胸骨翻転術と同様、過長の著しい第3、4肋軟骨および第6、7肋軟骨を十分に行ない第5肋軟骨は少ないものとする。全体のバランスおよび肋間距離を総合判断して胸郭の再構築を行なう必要がある。

肋間動静脈の止血ののちTevdek No.3糸にて縫い合わせる。切断端は縫着し終えたときに組み木細工のように合うように切断する。1/8インチ径の排液管を胸骨近傍に留置し、また壁側胸膜損傷の際も同排液管を胸腔内に挿入し、胸骨翻転術を同様の陰圧で吸引する。筋層、皮下組織、皮膚の縫合ののち、手術を終える(図Ⅲ-6、Ⅲ-7)

3.鳩胸手術後に心肺圧迫症状が出現し再手術を施行した一例

著しい前胸部の突出とHarrison溝に一致した陥凹を有したkeeled pigeon breastの1例に対して過長肋軟骨切除術(shortening of the cartilages)、胸肋沈下術(sterno-costal depression ; SCD)を施行したところ術後心肺圧迫症状が進行し、再調整する必要が生じた一例を経験したので報告する。

a.症例

N.Y., 13歳男性(図Ⅲ-8)
主 訴:前胸部変形
家族暦:特記事項なし
既往歴:特記事項なし
現病歴:出生時より前胸部変形に気づくも放置。小学校入学前、某院受診するも、手術の必要なしといわれる。昭和60年、中学校入学時の検診にて当科を紹介され、当科外来を受診した。鳩胸(keeled pigeon breast)と診断。同年9月14日手術目的にて入院となる。
入院時現症:体格小(身長133cm、体重26kg)、視力両眼0.2、頭頸部異常なし。前胸部は第3肋軟骨~第7肋軟骨が胸骨を中心に前方へ突出し、また両側のHarrison溝に一致する著しい陥凹を認めた。心雑音は認められない。腹部、四肢には異常なし。血圧144/64、脈拍82/分。
検査所見:末血像、血液生化学、検尿に異常なし。胸部X線写真正面像は肺野に異常はなく心陰影は正常の位置に認めた。


脊椎にはCobb角12°の右へ凸の側彎をみた。側面像では胸骨の前方への突出が著しく心臓は胸骨後面に接しており肺の陥入はみられない。Harrison溝に一致する部分の陥凹に起因すると考えられる前胸壁の段差を明確に認めた。胸部CTにても前胸部の突出は著しかった(図Ⅲ-9、Ⅲ-10)。心電図上では右軸偏位、V1のP波陰転、V1、V2のT波陰転を認めた。心エコーでは胸部変形のため記録困難であったが、ほぼ正常所見であった。
入院中経過:昭和60年9月18日、気管内挿管、全身麻酔下に過長肋軟骨切除術(shortening of the cartilages)、胸肋沈下術(sterno-costal depression ; SCD)施行。術直後より中心静脈圧は高値(18cmH2O前後)を示したが、術後約4時間目に気管内チューブを抜管しえた。しかしその後しだいに呼吸不全が増強し、また中心静脈圧は依然高値のままで脈拍数150/分、顔面および下肢の浮腫も出現したため、術後2日目の9月20日に胸骨による心臓の圧迫を考え再手術を施行した。肋軟骨縫合に用いたTevdek糸を解除することにより、中心静脈圧は下降し、脈拍数の減少をみた。心臓は胸骨による圧迫で左胸腔内に時計軸方向に捻れており、左右の肺、とくに左側肺は広範な無気肺の状態であった。積極的陽圧呼吸と肺のミルキングにより肺の含気を十分としたのちに、余剰肋軟骨による架橋を作製し、心臓を圧迫しない位置に胸骨を固定した。術後はflail chestを考慮してICUにて2日間のIPPBを施行したのち抜管。10月31日(手術後41日目)に退院し、外来経過観察とした。退院後1年を経過したが経過は順調である。

b.考案

本疾患の成因としてはLester4)による肋骨過長説とBrodkin5)による横隔膜付着異常説とがある。でき上がった病態は肋軟骨の過長があり、これによって胸骨が前方に押し出されていることは容易に理解できる。1953年、Lesterが最初に行なった骨膜外肋軟骨切除術をはじめとして、Chin6)の剣状突起横断、第1~7肋軟骨骨膜外切除、Howard9)の骨膜外肋軟骨切除、胸骨横切開および腹直筋による牽引、Ravitch2)の骨膜外肋軟骨切除および骨膜縫縮術などさまざまな術式が施行されてきた10~13)。
われわれは本疾患の前胸部突出は肋骨および肋軟骨の過長と走行異常によるものであり、これらを根本的に解決する術式としてsternal turnoverとshortening of the cartilages (sterno-costal depression)を用いてきた。後者はある意味でRavitchの骨膜外肋軟骨切除および骨膜縫縮術とほぼ同様である。本術式は肋骨の急峻な斜走を矯正し、肋軟骨切除後左右の肋軟骨の牽引により胸骨の突出を正常化させる方法であり、胸肋沈下術(sterno-costal depression ; SCD)と呼称している。ここで提示した症例は、術後胸骨により心臓が圧迫され心不全、呼吸不全により再手術を余儀なくされた。漏斗胸と異なり鳩胸の場合、手術により胸骨は押し下げられる点が問題となる。
keeled pigeon breastは一般に心臓と胸骨の間に肺が嵌入しているのが胸部X線写真側面像および胸部CT像で知ることができる(図Ⅲ-11、Ⅲ-12)。しかし本症例は前胸部の突出は認めるが胸郭前後径が小であり胸骨の後方に接近して心臓があり、その後は脊椎であった。肺が嵌入している場合は、術後にこの部位の肺が左右に移動することによりその間隙は消失し心臓の圧迫はみられない。
本性例のように、胸骨の後方にすぐ心臓が接している場合、この突出部を平坦にすることにより心臓を圧迫する可能性があることを念頭におく必要がある。すなわち術前の胸郭形状の前後径が小さい症例では胸部X線写真側面像および胸部CTにより、胸骨後面と心臓の間に肺が存在するかどうかを確認し、胸骨の後面に心臓が接している症例では術中の中心静脈圧を指標として心臓の圧迫をきたさないように注意を要する。(笠置 康)

文献

1)Perie, A., Perez, L., Nurko. S., et al. : Pectus carinatum and pectus excavatum.Are they the same disease? Amer. Surg., 47: 215,1981
2)Ravitch, M. M.: The operative correction of pectus carinatum (pigeon breast). Ann. Surg.,151:705, 1960
3)Robicsek, F., Cook, J.W. Daugherty, H.K. et al.: Pectus carinatum. J.Thor.Cardiovasc. Surg.,78: 52,1979
4)Lester, C.W. : Pigeon breast (Pectus carinatum) and other protrusion deformities of developmentalorigin. Ann. Surg., 137: 482,1953
5)Brodkin, H.A. : Congenital anterior chest wall deformities of diaphragmatic origin. Dis. Chest., 24:259,1953
6)Chin, E.F.:Surgery of funnel chest and congenital sternal prominence.
7)笠置 康、山口明満、白楽 淑他:鳩胸の外科治療、日臨外医会誌、43:269,1982
8)Bianchi, C., Pizzoli, A., Campacci, R. : Resultati a distanza. Su 20 casi di “Cifosi Sternale” trattati Incruen tejente. Francastoro, 61:779,1968
9)Howard, R. : Pigeon chest (protrusion deformity of the sternum). Medical J. Australia, 45:664,1958
10)長縄伸幸、佐々木信義、加藤敬純他:小児の鳩胸16例の治療経験. 日小外会誌、20:703,1984
11)藤原嗣充、星野 豊、狩野一臣他:鳩胸の胸骨翻転術による外科治療、胸部外科、31:371,1978
12)村中幸夫、渡辺洋宇、小林弘明他:鳩胸に対する1手術治験例. 手術、36:967,1982
13)草島勝之、小松作蔵:漏斗胸の鳩胸と症候と病態. 外科、47:241,1985

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