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みんなの教科書『胸郭変形』

胸郭変形

※一部グロテスクな表現のある画像があります。
心臓の弱い方は注意して御覧ください。

1.歴史的考察と定義

この章では、自経例を呈示し、Poland症候群、とくに大胸筋欠損を伴う漏斗胸の外科治療を中心に述べる。
Poland症候群は1841年、Alfred Poland により“deficiency of the pectoral muscles” として報告されている。このような症例に対しPolandの名を引用したのは、1962年、Patrick Clarksonによって報告された”Poland’s syndactyly”からである。Poland の解剖報告によれば、患側は左側であり、外腹斜筋は部分欠損、大動筋は胸肋部が欠損し鎖骨部は正常、小胸筋は完全欠損、前鋸筋の大部分が欠損していた。また、胸部の血管は低形成であり、胸部の神経も部分欠損していた。同側手指は中指以外の中指骨欠損がみられ、指間は水かき様であった。親指は外見正常であった。
以下に原文を示す。

DEFICIENCY OF THE PECTORAL MUSCLES

Reported by Mr. ALFRED POLAND
The following appearances presented themselves to me, in dissecting a subject at the commencement of the present session(1840-41).
George Elt, a convict, aged 27, respecting whom no history could be obtained ; except that it was remarked that he could never draw his left arm across the chest ; and that when asked to give his left hand, in order that his pulse might be felt by any one standing on his right side, he invariably turned round to do so.
The body generally was spare and delicate. The muscles of the right arm were much more developed than those of the left ; and the right biceps had an additional head arising from the humerus.
The lest external abdominal oblique muscle was fleshy superiorly and posteriorly, and tendinous inferiorly and anteriorly ; arising, by rather indistinct digitations, from the bodies of the six inferior ribs, midway between their angels and their cartilages ; and having also a distinct fleshy fasciculus from the eighth rib, just at its attachment to its cartilage : the muscle than descended, and became tendinous at a horizontal line on a level with the umbilicus ; and was inserted into the anterior third of the outer labium of the crista ilii, and into the pubes, forming, as usual, Poupart’s ligament ; and being entirely unconnected either with the linea semilunaris or lines alba, between which latter and the internal free edge of the muscle a triangular space was left, in which was seen a part of the obliquus internus.
On reflecting the integuments from the anterior parietes of the chest, the ribs, intercostal muscles, and the cavity of the axilla, were at once exposed. The whole of the sternal and costal portions of the pectcralis-major muscle were deficient ; but its clavicular origin quite normal : this latter was thick and fleshy, and passed downwards and outwards, to be inserted, by a thin, broad tendon, into the outer edge of the bicipital groove, to the same extent as usual.
The pectoralis-minor muscle was wholly absent ; not a vestige of it to be seen.
The serratus-magnus muscle was also, for the most part, deficient, its two superior digtations only being present ; arising, as two shourt, thick, and fleshy heads from the first and second ribs : these immediately united, and passed to be inserted fleshy into the superior angle of the scapula, in front of the levator scapula.
The thoracic vessels were present, but very small, supplying the intercostal spaces.
The anterior and middle thoracic nerves from the axillary plexus were not found ; but the posterior, or the Respiratory of Sir C. Bell, was present, and distributed to that portion of the serratus-magnus which existed.
In the left hand※, the middle phalanges were absent in all the fingers ; except in the middle finger, where a ring of bone, a quarter of an inch in length, supplied its pleace. The web between the fingers extended to the first phalangean articulation ; so that only one phalanx remained free on the distal extremity of each finger. The left thumb was quite normal. The left hand was shorter than the right, by the length of the middle phalanges.
No malformation was noticed in any part.
※The hand was been deposited in the Museum of Guy’s Hospital.

その後、RavitchによってMaceの報告に加え146例が詳細に検討されている。それによれば、男女比は69%が男性、患者は66%が右側である。その他多くの報告がみられるが、同様な値である。自験12例においても男性8例、女性4例であり、患者は右側9例、左側3例であった。
Poland症候群の診断基準として定められたものはないが、文献上、大胸筋欠損症(pectoralis major muscle defect : PMD)に患側上肢(主に手指)奇形を伴う症例としているようである。isolated PMDも含む報告もみられるが、PolandとClarksonを尊重し、PMDに患側上肢奇形を伴うものをPoland症候群またはPoland complexとし、isolated PMDと区別するのが的確であろうと考えられる。厳密にいえば自験12例においてはPoland complex 3例、isolated PMD 9例である。
Poland症候群にしばしばみられる身体所見をあげる。
(1) Absence of the costal portion of pectoralis major muscle
(2) Brachysyndactyly
(3) Hypoplasia or absence of the breat and/or nipple


(4) Hypoplasia of subcutaneous tissue
(5) Absence of pectoralis miner muscle
(6) Absence of costal cartilages or ribs 2,3 and 4, or 3,4 and 5
その他多くの合併奇形が報告されている(表Ⅳ-1)。
Poland症候群に合併する漏斗胸の特徴はipsilateral funnel chestであり、contralateral pigeon chestを合併しやすいことである。自験のinspilateral funnel chest症例の半数は、contralateral pigeon chestを合併していた。また、1例のsymmetric funnel chest を経験している(表Ⅳ-2)。自験の心血管造影によると、右胸心合併症例のほとんどはLt. Lateral funnel chest による心右方偏位であると考えられる。手指奇形はBouvetの分類、Type 1 : Brachymesophalangy with syndactyly, Type 2 : Biphalangy, Type 3 :Ectrodactylyがある。
Poland症候群(Poland complex)の出生頻度は、McGillirray and Lowryにより1/32,000、Freire-Maiaらにより1/30,000、Castillaらにより1/49,925と報告されている。漏斗胸との合併(Poland complex and isolated PMD)は、Ravitchでは200例中6例、自験1,400例中11例である。
病因としては、EhrenhaftらやGoldbergらはupper limb budの発育異常と考え、Davidは妊娠初期5週間前後、すなわち胸部の筋肉と胸骨、肋骨、手指の発生する時期に、薬剤服用などの母体へのなんらかの影響により発生するのではないかと考えている。CastillaらはPMD27例とコントロール群270例の妊娠初期の因子を検討し、薬物、とくにホルモン剤服用、および性器出血が有意に多いことを報告している。症例1においても性器出血があり、ホルモン注射治療を受けている。Bouvetらはvascular origin説の中で、患側動脈血流量の低下と患側動脈狭窄途絶を示す症例を報告している。われわれも5例に対し患側動脈造影を施行したが、明らかな異常は認めていない(図Ⅳ-6参照)。

2.外科治療

胸部外科領域におけるPoland症候群合併奇形で外科治療の対象となるのは、漏斗胸(肋骨部分欠損を含む)、大胸筋欠損、乳房低形成である。

a.漏斗胸

(1) 胸骨翻転術STO(STO-O)
(2) 肋骨挙上術(CE)およびshortening of cartilages (SC)
(3) 胸肋骨挙上術(SCE)
(4) 胸壁補塡
(1)~(3)については、漏斗胸の外科治療の章を参照されたい。Poland症候群の漏斗胸の特徴は、外科治療の比較的困難なipsilateral funnel chestであるということである。患者肋骨の矯正のみでなく、対側肋骨の矯正も同時に行なうことが手術のポイントである。それにはcontralateral pigeon chestの合併も関与している。また、広範な肋骨欠損でなければ、このcontralateral pigeon chestの過剰肋骨を利用し、自家骨移植が可能な症例も多い(症例5)。胸壁補塡は、広範な肋骨欠損(肺ヘルニア)に対し、マーレックスメッシュ、テフロンメッシュ、シリコン板、セラミック、自家骨、異種骨などで肋骨および肋骨および肋間筋欠損部を補強する方法である。

b.大胸筋欠損

(1) 広背筋有茎移植(latissmus dorsi myocutaneous or muscle flap)
(2) prosthesis
広背筋有茎移植は、乳癌根治手術後の大胸筋欠損に対する形成外科的治療として確立しており、安定した手術成績を得ている。この術式を導入したのはBostwickらや大森らである。われわれも4例の経験がある。詳細な術式は症例9を参照されたい。この術式の欠点は、ある程度身体の成長した年齢、少なくとも思春期以上に限定され、また手術創が背部まで及ぶことである。prosthesisの使用は、再手術の必要はあるが、どの年齢にも適用可能で、手術創も前者に比べ小さいため、人工物である点を除いて優れた術式と考えられる。大胸筋形のprosthesisの出現が望まれる。

c.乳房低形成

(1) prosthesisの使用
(2) 広背筋有茎移植
prosthesisの使用は、形成外科領域で一般に行われている方法である。詳しくは他を参照されたい(症例3)。広背筋有茎移植と同時に施行する場合は、一般に広背筋下にprosthesisを固定している。広背筋有茎移植(myocutaneous flap)を利用し、広背筋を大胸筋の代用とし、その付着皮膚をロール状に巻き、乳房の代用とする方法も報告されている。
漏斗胸、大胸筋欠損および乳房低形成を伴う症例に対し、以上に述べた術式を単独または同時に施行する。現在、幼児期に骨性胸郭矯正術を施行し、思春期に達した段階において、広背筋有茎移植を施行することも検討している。年齢、性別、体型、それ以上に精神的影響も考慮し、術式を決めるべきである。

3.症例

われわれの経験した12例を呈示する(表Ⅳ-2)
【症例1】 Y.K., 6歳男性(図Ⅳ-1)
右側の大胸筋欠損、短合指症、前腕の発育不全、乳輪欠損、乳頭挙上および動脈管開存症が認められた。母親は妊娠初期に異常出血があり、切迫流産の診断にてホルモン注射治療を受けている。動脈管開存症に対して左側中腋窩切開にて動脈管切離術を施行した。
【症例2】 S.H., 6歳男性
右側の大胸筋欠損、lateral funnel chest, 乳輪欠損、乳頭挙上が認められた。Lateral funnel chestに対して、皮膚縦切開にて右側の肋骨挙上術を施行した。術中、大小胸筋欠損、右側肋骨の強度変形が認められた。
【症例3】 K.M., 13歳女性(図Ⅳ-2)
右側の大胸筋欠損、第2、3肋軟骨欠損、lateral funnel chest, 乳房低形成が認められた。この症例に対しては、乳房prosthesis挿入による豊胸術を施行した。
【症例4】 S.M., 31歳男性
右側の大胸筋欠損、lateral funnel chest および Rt.pigeon chestを伴い、心血管造影にて心右方偏移、僧帽弁逸脱症が認められた。皮膚縦切開にてSTOおよびLt. CE + Rt. SCを施行した。

【症例5】 T.O., 4歳男性(図Ⅳ-3)
左側の大胸筋欠損、lateral funnel chest, Rt. Pigeon chest, 左前胸壁の奇異性呼吸および心右方偏移が認められた。この症例に対し、皮膚縦切開にてLt. CE + Rt. SCを施行した。術中左第3、4肋軟骨および前方肋骨欠損が認められ、これに対し右側の切除肋軟骨自家移植を行なった。
【症例6】 Y.T., 12歳男性
右側の大胸筋欠損、lateral funnel chest および Lt. pigeon chestが認められた。右第3肋軟骨欠損が認められたが、肋骨と胸骨の直接固定が可能であった。
【症例7】 R.F., 6歳男性(図Ⅳ-4)
右大胸筋欠損および対称性漏斗胸が認められた。皮膚縦切開にてSCE を施行した。術中においても肋骨の明らかな非対称は認められなかった。



【症例8】 T.Y., 7歳男性
右側の大胸筋欠損、乳頭挙上、第2,3肋軟骨欠損が認められた。現在経過観察中である。
【症例9】 M.S., 25歳女性(図Ⅳ-5)
右側の大胸筋欠損、lateral funnel chest、乳房低形成、指間膜による合指症および短指症が認められた。術前患側動脈造影では、右側内胸動脈がやや外側を走行するのみで、他に明らかな異常は認めなかった。
術 式 : 左側伏位にて、右広背筋上に約11×5cmの紡錘形皮切を加えた。胸背動静脈および神経を有茎とし、広背筋および皮膚を一魂とし剝離した(図Ⅳ-7)。胸筋動脈の血流を確認したのちに、腋下部皮下に一時留置した。次いで、仰臥位にて乳房下皮膚横切開を加え、STOおよびRt. CEを施行した。腋下部皮下を剝離し、筋皮弁を前方へ移動し、広背筋を右側肋骨および胸骨に固定した(図Ⅳ-8)。皮膚は右乳房下皮切の間に移植した(図Ⅳ-9)。

【症例10】 K.H., 17歳男性
右側大胸筋欠損、和田分類1度漏斗胸および合指症を認めた。SCEと広背筋有茎移植を一期的に施行した。
【症例11】 M.O., 32歳女性
右側の大胸筋欠損、lateral funnel chest、contralateral pigeon chest, 乳房低形成が認められた。Rt. CE + Lt. SC と広背筋有茎移植を一期的に施行した。
【症例12】 K.K., 14歳女性(図Ⅳ-10)
左側の大胸筋欠損、lateral funnel chest、乳房低形成が認めた。SCEと広背筋有茎移植を一期的に施行した。
(曽根 康之)

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