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みんなの教科書『胸郭変形』

胸郭変形

※一部グロテスクな表現のある画像があります。
心臓の弱い方は注意して御覧ください。

1.Marfan症候群

Marfan症候群は先天性の結合織疾患で遺伝性疾患と考えられており、心血管系病変、骨格系病変および眼病変などを呈する症候群であり、その本熊は現在なお不明である。すなわち、細長い四肢dolichomorphism, 長い下半身dolichostenomelia, 解離性大動脈瘤dissecting aneurysmおよび水晶体偏位などが特徴である(図Ⅵ-1)。
Marfan1)は、長い四肢、クモ状指趾、関節過伸展、長頭型頭蓋など特異な骨症状を記載し、dolichostenomeliaと命名した。Achard2)はクモ状指趾に注目してarachnodactylyと呼称した。Salle3)は心大血管病変を有することを報告した。Boerger4)は水晶体脱臼、近視、紅彩振盪、網膜異常などの眼症状を記載した。Weve5)は本症候群が優性遺伝であることを明らかにした。Baer6)、Etter7)は本症候群と大動脈拡張や解離性大動脈瘤が合併することを報告し、またEtterは本症候群が成人にも存在することを述べた。Mckusick8)は集大成に本症をまとめた。
本症候群の大部分は常染色体優性遺伝の形式をとるが、常染色体劣性遺伝の報告もある9)。また、両親が高齢においては突然変異によるものと考えられる症例もみられる10)。
長身瘦軀、骨格異常、眼症状、家族性などの発生率は人口10万人あたり4~6人といわれているが、その不全型を含めると、その頻度はさらに高いものと考えられる。
本症皮膚コラゲーン(collagen)の溶解性増加、実験的lathyrismとの類似性からリジン酸化酵素の異常も疑われるが、線維芽細胞での活性は正常である。大動脈中膜の囊胞性壊死からは、弾性線維の断裂、破壊が存在することにより弾性線維の異常が示唆される。また全身の結合組織の異常をきたす疾患であることから、結合組織という観点に立てば、特異的蛋白の存在が示唆される。
本疾患の特異的蛋白であるコラーゲンは特殊なアミノ酸組成を有し、ヒドロキシプロリンを大量(7~14%)に含むほか、グリシン(25~28%)、プロリン(9~10%)、アスパラギン酸(4~7%)、グルタミン酸(6~12%)などを多く含んでいる。一方、シスチン、トリプトファンを欠き、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニンは極少である。

コラーゲン構造は3本のペプチド鎖がねじれるようにからみあって細長い線維を形成する。ヒドロキシプロリンはコラーゲンに特異なアミノ酸であるばかりでなく、コラーゲンの熱に対する安定性やその立体構造の形成に重要なものである。
Marfan症候群においては尿中ヒドロキシプロリンの排泄増加がみられるとの報告がある。この尿中ヒドロキシプロリンはペプチドの形で排泄され、食餌の影響はほとんど受けず、内因性のものであり、主として骨コラーゲンの異化を反映するものと考えられている。したがって骨成長の速やかな小児期には尿中ヒドロキシプロリン(ペプチド型)の排泄は多く、小児の成長率と密接な関係があるといわれている。しかしながら、これまでに述べた弾性線維および膠質線維の異常に対する確証はなく、これらに関しては今後の研究がまたれている。

a.症状

典型例では筋・骨格系症候、眼症状、心血管系病変など以下に述べる特徴をそなえているが、実際には不全型も多く認める。不全型についてはしばしば確定診断に迷うことがある。

1)筋・骨格系症候
皮下脂肪が菲薄で骨格筋の発達も悪く瘦身である。典型的な外胚葉型のため、肋骨と骨盤の輪郭が目立つ。筋肉の減少はクレアチニン値が正常であるので、骨症状から2次的に生じたものと考えられる。身長は高くとくに下肢が長い。筋力は低下し脊椎の側彎および後彎、漏斗胸あるいは鳩胸などの胸郭変形疾患を認める場合も多い(図Ⅵ-2)。X脚、反張膝、扁平足など種々の骨格変形をみる。手と足は一見クモの脚に似ており、クモ指、マドンナの手といわれる。
関節囊、靱帯は弛緩して過伸展を呈する。運動は不格好で、舟底足のため歩容が変わる。普通、神経質な顔立ちで、実際の年齢よりふけてみえる。前頭部は高く盛り上がっていて、頭蓋、顔面も細長(dolichocephalia)で、口蓋高位を認める。耳は大きく、耳介には正常なひだがない。骨格の不均衡を示すのにもっともよい指標は、上節(upper segment ; US)と下節(lower segment ; LS)の比(US/LS)である。下節の長さ(恥骨から足底まで)は、上節の長さ(恥骨から頭頂まで)より長い。また手の長さ(armspan)も身長より長い。指趾も細長く、いわゆるクモ様の外観を呈する。クモ状指の基準として用いられているものに中手骨指数(metacarpal index)があり、これは〔第2~5中手骨の長さの平均/中心点での骨の太さ〕で表わされ、本症候群では8.5以上となる。関節は弛緩しているため可動域が大きく、手指が長いこともあって母指徴候(thumbsign)が陽性となり、手首も細いため手首徴候 (wrist sign) が陽性となる(図Ⅵ-3)。

長管状骨は細く長い。構築学的には正常で、骨幹の直径も正常、骨幹内径と骨皮質の異常はない。骨幹端の輪郭は正常で、骨端も正常で、良好な関節面を有する。骨折しやすいという異常な傾向はない。短管状骨のうちクモ状指を形づくる中手指、中足骨および両手両足の指骨は非常に長い。第1趾が異常に長いことを特徴とする。手の屈曲変形が起こることもあり、第5指の彎指症が報告されている。骨幹内径は正常であり、過剰な長さのために骨幹が薄いように錯覚する。
骨盤は、腸骨稜内側が広く開き、ミッキーマウスの耳に似ている。寛骨臼窩は深く、仙腸関節は正常である。肋骨・肋軟骨は過成長し、走行は縦に急峻であり、そのため漏斗胸、鳩胸をみる。鎖骨は脱臼する可能性がある。脊柱のX線検査では、脊椎の高さは明らかに増加している。亀背や側彎症の合併は骨自身の欠陥ではなく、靱帯の弛緩によると考えられる。
足根骨では踵骨棘の発生をみるものがある。頭蓋骨は長く、また頭蓋底も長く、頭蓋の輪郭は長頭形を示す。顔は長く細く、口蓋はアーチ状をしている。トルコ鞍の大きさは正常である。頭蓋冠の厚さも正常である。下顎骨は下顎突出症を示す。
2)筋・骨格系症候
大動脈内膜の囊状壊死により解離性大動脈瘤をきたす。またバルサルバ洞を含む大動脈起始部の洋梨状拡大が起きれば、本症候群に典型的な大動脈弁輪拡張症(annuloaortic ectasia)の臨床像を呈する。動脈壁の脆弱性に因を発することより、動脈瘤は胸部のみにとどまらず、胸部大動脈瘤として発症するものもある。大動脈瘤が生じても数年間無症状で過ぎる例をみるが、しばしば突然死をきたす。まれに突発性肺動脈拡大症、肺動脈瘤を認める。房室弁の病変は大動脈弁病変に合併し、あるいは単独でみられ、粘液変性を伴う弁輪部拡大、腱索断裂などの所見を呈する。僧帽弁逸脱症の軽度のものから、僧帽弁・三尖弁閉鎖不全症のごとく、心不全の原因となりうるものまでさまざまである。大動脈弁閉鎖不全症では、de Musset徴候、Corrigan脈と呼ばれる速脈(pulsus celer)、拡張期圧低下、脈圧増大、Quinke毛細管拍動などを認める。聴診所見は、特徴的な拡張期灌水洋雑音、Austin Flint雑音、大動脈駆出音、収縮期駆出性雑音などがある。僧帽弁閉鎖不全症では全収縮期雑音、Ⅲ音を聴診し、僧帽弁逸脱を伴うとしばしば収縮中期クリックをみる。胸郭異常が存在すれば、心臓は位置異常をきたし、心雑音の最強点が定型的な部位からずれて、ときには左背部に位置することもある。
次いで検査所見について言及すれば、胸部X線写真では胸郭変形が存在すれば、心臓の位置異常、回転をきたし、心血管陰影は心血管病変の種類により異なる。大動脈弁または僧帽弁閉鎖不全症が存在すれば、左房・左室の拡大を、大動脈瘤、大動脈弁輪拡張症が存在すれば、上行大動脈の拡大を認める。
心電図上は、漏斗胸があれば、心臓の左方偏位によりV1、V2のP陰性、右軸偏位、右脚ブロック、時計方向回転、移行帯の左方偏位、V1のQRS低電位とV1のR高電位などがみられ、大動脈弁または僧帽弁閉鎖不全症が進行すれば、左室肥大、ST-T変化を認める。

心電図においては、大動脈弁閉鎖不全症があれば、拡張期灌水様雑音、大動脈駆出音を認め、僧帽弁閉鎖不全が存在すれば、逆流性収縮期雑音、Ⅲ音を僧帽弁逸脱が存在すれば、収縮中期クリック、逆流性収縮期雑音を認める。
心エコー図では、大動脈弁閉鎖不全があれば、僧帽弁前尖の拡張期振動がみられ、僧帽弁逸脱が存在すれば、僧帽弁の左房側へ収縮期膨隆を認める。また、大動脈弁輪拡張症が存在すれば、大動脈径の拡大を認める。
CT所見では、大動脈弁輪部の拡大を認め、造影剤を付加することにより、解離性大動脈瘤において隔壁をみることがある。
MRIは、大動脈におけるさまざまな所見を体軸に対し平行および垂直な面で知ることができる有効な手段といえる。これにより大動脈の拡張・解離性大動脈瘤における真腔および偽腔の状態を適確に把握することが可能となった(図Ⅵ-4)。
心血管造影は心血管病変の診断と手術適応決定にとって、もっとも重要な検査法である。大動脈弁輪拡張症があれば、大動脈起始部の洋梨状拡大と大動脈弁逆流を認め、僧帽弁閉鎖不全症が存在すれば、僧帽弁逆流、左房・左室の拡大を認める(図Ⅵ-5)。
3)眼症状
眼は球状水晶体Spherophakiaを有し、したがって高度近視が多く、しばしば白内障を伴う。水晶体偏位は58~83%にみられ、多くは両側で内上方に向かう。これは懸垂靱帯の結合組織異常といわれる。前房内ことに隅角に中胚葉組織の遺残、虹彩の形成不全もある。球状小水晶体による瞳孔流通阻害や隅角部の発育不良などから瞳孔領の房水流通阻害、後房圧上昇、浅前房、周辺虹彩前癒着などが2次的に起こって緑内障を起こす可能性がある。また、眼球が長軸方向に延びるため近視や網膜剝離も起こしやすい。

4)その他の所見
知能は正常であり鼠径あるいは横隔膜ヘルニアをみる場合がある。呼吸器系では自然気胸、肺囊胞がみられることがある(図Ⅵ-6)。弾性線維の欠損と考えられているelastomaや嚢胞腎、聾などの合併がある。

b.予後

平均寿命をBowersら11)は45歳、Murdochら12)は32歳と報告している。高齢者生存の報告もあるが一般に短命で、死因としては心血管障害によるものが多い。

c.治療

女性に対しては女性ホルモン投与による思春期早発が試みられ、蛋白同化ホルモンの投与も効果があるとの報告もある。βーブロッカーの投与も解離性大動脈瘤の予防にも意義があると考えられている。胸郭変形疾患や脊椎側彎症のような骨格系症候13)や、続発性緑内障などの水晶体変位に伴う眼症状の著しいもの、大動脈弁輪部拡張症、解離性大動脈瘤、房室弁閉鎖不全症のような心血管病変に対しては外科治療が行なわれる14)。心血管系病変に対する外科治療の遠隔成績は40~60%である15)。
Marfan症候群は心血管系病変に原因する予後の悪さからその根本的治療法について追求していかなければならない疾患である。
遺伝的因子の強いことが知られており、本症候群が疑われた場合には十分な家族歴の聴取が重要である。家族歴の聴取においても問題となる不全型(不全型と考えらえる人は社会に沢山いるとも考えられる)の処遇について1つのラインをひく必要性がある。公衆衛生の面、診断の簡素・確定化、内科的・外科的治療法の確立が今後の課題と思われる。(笠置  康)

2.straight back症候群

1960年、Rawlings16)が胸部側方向X線像で、胸椎が直線状の症例で、心雑音、心陰影拡大、心電図異常があり、器質的心疾患がない症例を述べ、これをpseudo-heart-diseaseと命名した。
正常人の場合、立った姿勢で、脊椎をまっすぐでなく、頸椎は軽く前彎、胸椎は軽く後彎、腰椎は軽く前彎している。胸椎の後彎のない症例がstraight back症候群と呼ばれている。

a.定義

Rawlings16)は第2胸椎以下がまっすぐであることを述べたのみで、とくにくわしく定義しなかった。1980年、Davies17)は、胸椎の8番の前縁が胸椎の4と12をむすんだ線の1.2cm以内をstraight back症候群と定義した。健康成人ではこの距離が約2cmである(図Ⅵ-7)。
心臓病専門医に紹介される患者の5%にstraight back症候群があるともいわれている。

b.症状

動悸、胸痛、呼吸困難などを認める。Daviesら17)によれば、動悸は患者の38%に、胸痛は29%に、そして呼吸困難は19%にみられた。このほか、上室性頻脈症、心室性期外収縮などもみられることがある。

c.理学所見

やせ型、長身の人に本性を認めることが多く、Marfan症候群の不完全型という意見もある。しかし、straight back症候群とMarfan症候群との関係は、現在、はっきりしていない。
本症候群患者には、扁平胸があり、1/3に漏斗胸や胸骨、肋骨の奇形を認める。胸椎の生理的後彎がなく、心雑音として肺動脈弁口に駆出性雑音を認めるほか、肺動脈弁閉鎖音増強、呼気時Ⅱ音分裂、三尖弁閉鎖音増強などを認める。
Rawlings16)によれば、右室が胸壁で圧迫を受けるため、右室流出路が変化し、心雑音が生じるという。また、胸壁が心の近くにあるので心雑音が聞こえやすいとも述べている。
Daviesら17)の見解では、straight back症候群患者の心雑音は増帽弁逸脱(mitral valve prolapse)のためだという。
心雑音は主に収縮期雑音で、クリック様である。全収縮期(pansystolic)に入る心雑音ではなく、収縮期に短時間、聴取される。拡張期の雑音はない。

d.胸部X線像

胸郭の圧迫による心の扁平化(pancake)がある。心の左方への移動、肺動脈円錐の突出がある。側方向においては扁平な胸郭、真直ぐに並んだ胸椎がみられる。
右横隔膜上の高さで、肋骨内側面の距離に対する胸骨裏面から第8胸椎前面までの距離の百分率比は、正常成人では47%であるが、本症候群では42%と短縮している。

e.心電図

V1でrSr´いわゆる不完全右脚ブロック型を示す。そのため、V1のT波は年齢を問わず陰転している。
心臓が左方に偏位しているため、V1でのP波は陰転している。
また、心臓が左にあるため、V5、V6でR波が高くなり、左室肥大の所見を呈することもある。

f.超音波検査

straight back症候群の患者において、僧帽弁逸脱がみられるため、問題が大きくなっている。1979年、Udoshi18)は2人に1人は僧帽弁逸脱があると述べた。また、1980年、Davies17)はstraight back症候群の患者の3人に2人(67%)において、mitral valve prolapseを認めた。
発生学上、僧帽弁と脊椎は胎生35日から42日目の間にできるので、両者の病変には関連性が強く示されている。僧帽弁逸脱患者において、収縮期雑音をほとんど聴取しなくとも、カラードプラーで検査すると軽度または中等度の僧帽弁閉鎖不全症を認めることが多い19)。
このようなことから、straight back症候群を1960年、Rawlingsがpseudo-heart-diseaseと呼んだのは正しくないといわれるようになりつつある。

g.心カテーテル検査

平均肺動脈圧の上昇のほか拡張早期にdipを認めることがある。また、右室流出路に4~11mmHgの圧差を認めることがある。右室また左室の拡張末期圧(enddiastolic pressure)が上昇している例をみることもある。
左室造影では、僧帽弁逸脱を高頻度に認める。

h.予後

本性の鑑別診断として、心房中隔欠損、肺動脈弁狭窄症、特発性肺動脈拡張、心室中隔欠損、僧帽弁閉鎖不全症などを考える必要がある。本症候群は遺伝性が強く、常染色体(autosomal)の優性遺伝を呈する。
Rawlingsは、予後良好な疾患と述べたが、潜在的に僧帽弁逸脱症が多いことがわかり、注意深いfollow-upが必要と考えられるようになった。動悸、胸痛、呼吸困難などの症状はstraight back症候群そのもののために生じるのではない。それに合併した僧帽弁逸脱症などのために生じるといわれている。(横山 正義)

3.Tietze症候群

a.定義

1921年、Tietzeは上部肋軟骨の有痛性腫脹を主訴とする4例について報告した。以来この上部肋軟骨に発生する原因不明の有痛性で非化膿性、非腫瘍性の腫脹を特徴的臨床像とする症候群を、Tietzeと呼ぶようになった。
しかし近年その発生部位が上部肋軟骨のみに限定せず、胸鎖関節、剣状突起関節など広義に解釈されるようになり、その特徴的臨床像のみから診断されるため、同義語も多くTietze’s disease, costocondrities, costal chondritis, thoracoconritis, costosternal syndrome, parasternal chondrodynia, prominent costa artilage, transient synovitis of the costosternal jointなどの同義語がみられる。
本疾患についての医師の関心はまだ低く、その正確な頻度は不明であるが、決して少なくない。胸痛を訴えて医師を訪れる患者はすこぶる多いため、胸痛の鑑別診断上、本疾患を十分理解しておくことは大切である。

b.病因

Tietzeは4例中3例に肺結核の既往歴ないしは家族暦が認められたことより、その病因を、結核との関連性を含めた栄養低下による肋軟骨の異栄養であろうと推論したが、現在否定されている。その後も種々の病因論が唱えられてきたが、現在では、微少な外的ストレスを加味した外傷説が有力視されている。とくに胸肋靱帯への力学的ストレスと呼吸器感染症に伴う咳嗽による物理的刺激とが相まって発症すると思われている。

c.臨床症状

30~40歳代に好発し、男女差はない。罹患部位は第2肋軟骨が単独で侵されるものがもっとも多く、60~70%を占める。罹患側は左がやや多いとされているが、左右差を認めないという報告も多い。肋軟骨のほかに胸鎖関節、剣状突起関節、胸骨柄部体部間関節、輪状被裂関節の罹患例の報告もみられる。
突然または徐々に発症し、自覚症状は前胸上部の軽度または激しい疼痛で、咳や深呼吸などで増強される。肩や腕に放散することもある。
他覚的には固い有痛性腫脹(球または紡錘状、多くは4cm以内)が触知され、診断上きわめて重要である。全身症状は欠如し、臨床検査所見にも異常はない。リウマトイド因子は陰性である。
経過は慢性で、再発と寛解を繰り返すが、疼痛は数週または数ヶ月で消退する。腫脹も暫時軽減されるが、膨隆変形として残ることが多い。
臨床症状が特徴的なため、診断は困難ではない。有痛性腫脹を触知し、他疾患が十分除外できれば、診断は確実である。X線検査や生検は、本疾患の積極的診断法ではない。

d.病理学的所見

肉眼的には、表層の軟部組織や軟骨膜に腫脹と浮腫状変化をみるが、肋軟骨自体には膨隆がみられるのみである。
光顕的には、軟骨細胞間への血管成分の侵入と増殖、軟骨層の破裂を伴う変性所見と、基質の崩壊によるコラーゲン線維のむき出し状態、および周辺軟骨の増殖像、すなわち病的退行変性と反応性新生増殖所見が認められる。

e.鑑別診断

本疾患にとって臨床的にもっとも重要なことは他疾患との鑑別診断であって、表Ⅵ-1に示すような前胸部に疼痛や腫瘤を伴うすべての疾患が鑑別の対象となる。
このように本疾患はきわめて良性の経過をとりながら、ときに重大な疾患と誤診され、不要な処置が加えられることがあるが、本疾患の存在に留意していれば、その特徴的な病歴と臨床像より診断は比較的容易である。

f.治療

本疾患の予後は良好で、局所の温熱療法、鎮痛消炎剤などが有効である。局所のプロカインまたはステロイド薬注入も試みられる。不安を除くため、患者に疾患の性質を十分説明することも大切である。

g.漏斗胸手術後の肋軟骨腫瘤

胸骨翻転術では通常、第2肋間で胸骨を横断する。第2肋骨は患者側に残るが、第3肋骨はプラストロンの側にある。このような術式後、2~3か月して、第2肋骨の骨軟骨移行部が腫脹してくることがある20)。左右とも腫脹する場合と一側だけが腫脹する場合とがある。腫脹する第2肋骨は手術をしなかった肋骨である。著者はこの腫脹をTietzeと同一のものと考えている。手術により、第2肋骨に異栄養が生じたものと思う。軽度の血流障害のため、第2肋軟骨だけが過成長となったためかもしれない。
比較的軽度な漏斗胸で、胸骨翻転術を第3肋間で行なった症例があった。すなわち、胸骨は第3肋間で横断されているため、第3肋骨までが患者側に残っている。この症例では、手術後数か月して、第3肋骨の骨・軟骨移行部が腫脹してきた。
胸骨挙上術でも、軽度ながらこのような現象はみられるが、胸骨翻転術の場合ほど著明でない。胸骨挙上術においては、修復した肋骨の1つ上の肋骨に対し、ほとんど侵襲を及ぼしていないためと考えられる。
肋軟骨が平等に成長すれば、腫瘤形成が生じないのであるが、ある特定の骨だけに過成長が生じると腫瘤となり、これがTietze症候群となるものと思っている。(小野 完二)

4.側彎症21~24)

a.概念

脊椎は本来矢状面において前後方向への生理的彎曲を有し、人間の体重を支え、姿勢の安定をもたらしている。前額面での脊椎は通常彎曲を有しない。側彎は側方凸の彎曲で、それ自体病的で、しばしば椎骨の回旋を伴う。また、胸椎部では肋骨変形をきたし、胸郭変形の原因となる(図Ⅵ-8)。

b.分類と発生

1)機能性側彎症(非構築性側彎症)
脊椎の捻れ、楔状変化を伴わない一過性の側方彎曲で、自己矯正により彎曲の消失もしくは原因疾患を取り除くことにより彎曲の消失を認めるものである。原因としては、急速な成長による筋肉、靱帯、骨の対照的弱化、栄養および運動不足などからくる姿勢の不良や、股関節の変形、骨盤の傾斜による代償性側彎などもある。この中の小数例は、構築性側彎症(真の側彎症)に進行する例が認められるため疼痛除去や筋肉強化運動とともに半年ごとに定期的観察がのぞまれる。
2)構築性側彎症
原因別に下記のように分類されている(図Ⅵ-9)。
a)特発性側彎症:全側彎症の75%を占め、原因不明とされているが家族内発生率が高い。発生時により、乳児期側彎症(生下時~3歳まで)、学童期側彎症(4~9歳)、思春期側彎症(10歳~成人)に分けられる。乳幼児側彎症は男児に多く、左凸胸椎型、斜頭などを合併することが多い。これらの90%は1歳半頃までに自然治癒の経過をとるが、10%は進行憎悪を示す。後者には、中枢神経系異常を認めることがある。学童期側彎症では女児に多く、右胸椎型が多い。思春期側彎症は第2次成長期に発症するもので、特発生側彎症の80%を占めている(表Ⅵ-2)。女子に多く右凸胸椎型である。
b)先天性側彎症:生下時よりもっていた脊椎、脊髄の先天奇形により生ずる脊柱変形で、成長により憎悪する。癒合椎、楔状椎、肋骨癒合などの複合奇形を有し、図Ⅵ-10のように分類されている。
c)神経原性側彎症(麻痺性側彎症):脳性小児麻酔と、脊髄性小児麻酔(ポリオウイルスによる脊髄前角炎)によるものがほとんどで、前者は左右の体幹部のアンバランスにより側彎症がひき起こされ、成長期に悪化傾向を示す。また後者は、罹患側筋群と非罹患側筋群のアンバランスによりしばしば重度の側彎をひき起こす。本邦では、ポリオワクチンの普及でポリオ患者は減少し、現在では高齢者の患者をみることが多い。

d)筋原性側彎症:Duchenne型進行性筋ジストロフィーや、先天性多発性関節拘縮症により生ずる。
e)その他:神経線維腫症、Marfan症候群、Morquio症、漏斗胸、また外傷や、脊椎の炎症、感染、腫瘍により側彎症は発生する。

c.症候と診断

1)機能性側彎症(非構築性側彎症)
発生は無症状で、両親、友人あるいは学校検診により指摘されることが多い。
成人の腰椎側彎ではしばしば腰痛を訴え、また高度な胸椎側彎では運動時の呼吸困難を訴えることもある。胸郭の変形が高度な場合は、拘束性肺機能障害の原因となる。以上のように思春期に発生する率が高いこと、無症状なことを考慮し、学校検診などの1次検診での早期発見は、非常に重要であると考えられる。外見上のチェックポイントは4つある(図Ⅵ-11)。

(ⅰ)前屈検査による肋骨隆起(rib hump)
(ⅱ)立位背面視診上によるウエストラインの非対称性
(ⅲ)両肩の左右不均衡
(ⅳ)両肩甲骨の高さ、突出、左右差
その他、骨盤周囲の筋拘縮、脚長差、骨盤傾斜などをチェックすること。
2)X線学的所見
側彎症診断のためには、立位正面像、臥位正面像、立位側面像の写真が必要である。
a)頂椎、干渉椎、間椎:彎曲頂点の椎骨を頂椎という。凸側が高く凹側が低い。すなわち楔状椎の形
成が高度である骨でX線上棘突起の陰影から椎体の左右線の左右差がもっとも認められる。側彎症が正常体幹軸、あるいは代償性側彎に移行する部分の脊椎を干渉椎という。側彎部の上下に存在し、X線上棘突起から左右の椎体線の左右差が認められない。干渉椎にはさまれている側彎部の脊椎は程度に差はあるが、楔状を示し、この範囲の脊椎すべてを間椎という(図Ⅵ-12)。
b)側彎の計測:Ferguson法とCobb法が広く利用されている。Ferguson法では、上下の干渉椎と頂椎の3椎体の中点を結び2本の線のなす角度を求める。誤差は2~3°で、脊柱の捻転を呈する場合は頂椎の決定が困難なところが欠点である。Cobb法では、上方干渉椎の上縁と下方干渉椎の下縁に沿って線を引き、それぞれに垂線を立て、交わる角度の余角をもって表わす。この方法は、干渉椎の上下縁の決定の誤りにより、側彎角が大きくくい違う点が欠点である(図Ⅵ-13A、B)

c)椎体の回旋度の測定(Nash-Moe法):図Ⅵ-13Cのごとく、pedicleが椎体に対し、どれだけ偏位するかを1~4度で表わすことにしている。
3)心肺機能検査
胸椎側彎症では、Cobbで60°以上になると拘束性肺機能障害をきたし、術前には肺活量、1秒率、残気量、血液ガス分析、心電図などの検査が必要で、手術の侵襲に耐えうる%VCは40を下限と考えている。
4)モアレトポグラフィー
視診では検者により成績が一定しないことがあるのでモアレ写真にてより客観的な検査が用いられている。この方法は、スダレ状の細長い格子間隙を通した光を被検者の背面に投影し、これを再び同じ格子を通してフィルムで撮影し判定する方法である。側彎例では、左右の背面の高さの差が、非対称性の縞模様となって現われる。

d.治療

1)定期的経過観察
Cobb法により25°以下で骨成熟が完了していない症例に対しては、3~6か月ごとに外来定期観察をし、彎曲の増強をみるようなら保存的治療を行なう。

2)保存的治療
発育期で25~50°の彎曲を有する中等度側彎症に対しては、保存的治療が行なわれている。原理は体軸方向への牽引と回旋の矯正を同時に行ないつつギプス固定する。保存的治療として有名なのはMilwaukee brace(図Ⅵ-14)であるが、これはギプス包帯を利用しないで、矯正を目的とするので、清潔、軽快で、現在もっともよく使われる装具である。これは装具全体の土台となる骨盤帯とそれに立つ支柱である上方枠組み、さらに水平方向の力を加えるために各種のパットで構成されている。適応としては、特発性側彎症で、骨成長期にある症例で、Cobb角25~50°くらいまでが目安となる。50°を超える例でもflexibilityの高いものには、使用する場合もある。
3)観血的治療
保存的治療法で矯正保持困難な進行性変形の場合や保存的療法には変形の強すぎるもの(Cobb角で50°以上のもの)、保存的治療で抑制できない疼痛のあるもの、呼吸機能障害が認められるものなどが対象となる。現在用いられる手術式は表Ⅵ-3に示すごとくであり、基本的には、Harrington手術、Dwayer手術が行なわれている。矯正率50%に達しないものに対し、halo-pelvic traction, anterior wedge osteostomyが加えられる。
Harrington instrumentationは1960年、Harringtonにより発表されたもので、上はmajor curveより1椎頭側より、下はmajor curveより1~2椎頭側までを固定範囲とする。頭側凹側椎間関節、毛側椎弓にhockをかけ、distraction rodによる伸長力と、凸側横突起間にかけるhockとcompression rodによる圧迫力の組み合わせにより矯正をはかる。一方、Dwayer instrumentationでは、凸側椎体列に直接進入し、椎体板、軟骨板を切除し、カーブ凸側で、椎体にstapleとscrewを挿入し、titanium cableでしめる。(小林 浩司)

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